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海の見える丘の上で

わたくしは、マリウス様を見上げる。


「それでは、もう、今までのようにマリウス様にお会いできなくなるのですね」


「私がウルム公国に行けば、そうなるだろうね」


「でも、わたくしは、マリウス様がずっと側にいて、わたくしを守ってくれるのだとばかり思っていました」


わたくしは、ほとんど聞こえないくらいの小さな声で呟く。

わたくしは、悲しくなって俯いてしまう。


マリウス様の手がそっと伸びてきて、わたくしの顎を上げる。

顔を挙げると、マリウス様の瞳が、黒く輝いている。


「エリザ、私はエリザを守ると約束しただろう?」


「いつでも側にいると、マリウス様は言いました......」


「そうだ。そう言った。

だから、私と一緒に、ウルム公国に来て欲しいのだ」


「何ですって?ウルム公国に?」


「小さな伯爵領では、それ程贅沢はさせられないけれど、エリザが好きなドレスを作る事は出来るよ」


「それは、一体、どう言う事ですの?」


「私は、エリザに結婚を申し込んでいるんだ。

前にも一度そう言っているだろう?」


「えっ、あのおふざけの事を言っています?」


マリウス様は、わたくしにわざと嫉妬させてからかった時に、ふざけて結婚の申し込みをしたのだ。


「そんな風にふざけて結婚の事を言うなら、とても信じられませんわ。

また、わたくしをからかって、笑い者にしようとするのですね」


マリウス様は、わたくしの前に(ひざまず)く。


「エリザ、私がどう言ったら、信じてもらえる?

ヴィクトルみたいに、愛の詩を朗読しようか?」


「マリウス様は、どこまでもわたくしを馬鹿になさるのね」


わたくしは、悲しかった気持ちをからかわれたので、プンプン怒って立ち上がり、帰ろうと向きを変える。

その時、マリウス様はわたくしの手を掴んで、ぐっと引き寄せる。


わたくしはバランスを失って、マリウス様の胸の中に落ち込んでしまう。


「エリザ、エリザ......私のエリザ、愛しているよ」


マリウス様は、わたくしをきつく抱きしめる。

わたくしの髪の中に顔を埋め、わたくしの耳の側で囁く。


「私が、どれ程エリザを愛しているか、分からない?

エリザが幸せになれるようにと思って、いつも側にいたのに」


「マリウス様は......わたくしを......妹のように......思っていたのでは?」


わたくしは、驚きに震えながら、ようやくそう言った。

マリウス様は、わたくしの顔を覗き込む。


「最初は、そうだと思っていた。

けれども、ローシュ候爵と話すエリザを見た時から、私は自分の気持ちにはっきりと気付いたのだ」


「マリウス様は、リュシアン様に嫉妬を」


わたくしの言葉は、マリウス様の唇に塞がれる。

長い、長い口づけだった。


膝がガクガクして、崩れ落ちそうなわたくしの身体を、マリウス様はしっかりと支える。


「それで、エリザ、私と結婚してくれるね?」


「はい......」


わたくしは、辛うじて答える。

マリウス様と散歩に出掛ける前は、まさかこんな事が起きるとは思いもしなかった。


わたくしとマリウス様は、昔から運命の糸に結ばれていたのだろうか?

いや、いや、兄とは違う、とわたくしは心の中で首を振る。


「私はヴィクトルのように、気長に半年も待っていないからね。

あと三ヶ月で結婚をしよう」


「はい......ええっ、何ですって?

たった、三ヶ月で結婚式をするのですか?」


「そうだ。私はあと三ヶ月でウルム公国に行くのだから、エリザも結婚式を挙げてから、一緒に来てもらいたい」


「ウェディングドレスはどうするのですか!」


「私はどちらでも良いよ。

今着ているドレスでも、リラの精のように似合っていた薄紫色のドレスでも、何を着ても構わない」


「わたくしは、どうしても、真っ白いウェディングドレスを着たいのです。

これだけは譲れません。

誰が何と言っても、絶対に着るのです」


「分かった、分かった。

それじゃぁ、頑張って三ヶ月で作るしかないね」


わたくしは、ミレイユ様の結婚式のドレスも作ると約束したのだ。

二着のドレスを、わたくし一人で、期限までに作れる筈が無い。


わたくしが自分のウェディングドレスを作るときは、たっぷり時間があって、楽しみながらゆっくり作るのだろうと思っていたのだ。


まさか、こんなに特急料金が必要なくらいに急がされるとは、思っても見なかった。

わたくしだけが、大変な思いをするのはおかしい。


「マリウス様、わたくしと約束してくれますか?」


「何だろう?」


「わたくし以外の女性と、親しく話したり、ダンスを踊ったり、じっと見つめないと約束できますか?」


「何故?」


「マリウス様が、わたくし以外の女性を好きになったら、我慢できないからです」


マリウス様は笑って、わたくしをきつく抱きしめる。


「エリザは、私に嫉妬してくれるんだね。

良いだろう、約束するよ」


マリウス様は、わたくしにもう一度キスをする。


「エリザは、とても嫉妬深いのだったね。

これで実感を持って、リュシアン様の問い合わせに答えられるよ。

おまけに、私と結婚が決まっている話も本当だからね」


叔母様も、この話を聞いたら、驚くだろう。


「実は私も、正直に言えば、かなり嫉妬深いのだ。

エリザも、他の男性と親しく話したり、ダンスをしないでもらえるかな?」


マリウス様は笑っているけれど、実は目が真剣なのではないだろうか。


わたくし達は腕を組んで、しゃべったり、笑い合いながら、屋敷に帰る。

マリウス様は、わたくしの両親に結婚の申し込みの話をしてくれると言った。




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