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ヴィクトルお兄様の運命の糸

わたくしは、ミレイユ様のサイズから紙の型紙を作り、それを薄い生地の上に置いて布の型紙を作る。

布の型紙が出来たら、型紙を(しつけ)糸で縫い合わせてゆく。


わたくしは、朝から晩まで夢中になって針仕事をする。

わたくしの頭の中には、出来上がりのドレスの姿が浮かんでいる。


わたくしは、クリーム色の生地に、クリーム色の糸で刺繍しようと思っているのだ。

決して派手には見えないが、布の陰影が美しく、手の込んだドレスになるだろう。

胸開きには、オーガンジーよりも透け感の少ないレースを使ったらどうだろう。


手を忙しく動かしながら、頭の中であれこれと想像していると、一日があっという間に過ぎて行く。

数日後には、薄布での仮縫いにたどり着いた。


また兄にミレイユ様を迎えに行ってもらい、仮縫いのドレスを着せて様子を見る。

若干の手直しだけで、良さそうだ。


ここからは、本番のドレスの生地が無いと作れない。

もうすぐ休暇も終わるので、王都に戻ってからの話になる。

叔母様に型紙を見てもらって、間違いが無いかを確かめてもらわなければならない。


その日の夜に、マリウス様が、王都から馬に乗って屋敷に到着した。

長い距離を馬に揺られてきたせいか、マリウス様はお疲れの様子で、わたくし達に挨拶だけをすると、すぐ自室に入った。


次の日の朝は、皆で揃って朝食を摂る。

ゆうべ話せなかった兄が、(しき)りにマリウス様に話しかける。


「隣の領地の、モンテマール子爵家の令嬢を、マリウスも覚えているだろう?

とても美しいお嬢様だったけれど、修道院から戻られたら、それは素晴らしい麗人になってね!

そのミレイユ様が、何と私の求婚に応じてくれて、近く結婚することになったのだ」


兄は、わたくし達にも何度も繰り返した話を、マリウス様にも聞かせる。

兄は恋の魔法にかかっているので、ミレイユ様は子供の頃から美人だったと、思い出まで変わってしまった。


「それは、おめでとう!

良かったじゃないか。

けれど、随分急な話だね」


「ミレイユ様が、早い方が良いと言うのだよ......まぁ、私も異存は無いけれどね」


兄は、もう、デレデレに顔が緩んでいる。


「ミレイユ様は詩が好きで、私の趣味と非常に合うし、修道院に長くいたおかげか、世間擦れ(せけんずれ)していなくて、純粋な気持ちのお嬢様なのだ」


「そうか、気が合えばそれが一番だろうね」


「私は、こんなにも話の合うお嬢様は初めてなのだ。

私とミレイユ様が出会ったのは、運命だと思っている」


はい、はい、運命の糸で結ばれていたのですね。

わたくしの家族は、兄の話をもう誰も聞いていない。


「私とミレイユ様は、ずっと以前から運命の糸で結ばれていたのだ」


マリウス様は、さすがに呆れたように兄を見る。


「運命の糸で、結ばれている?」


「そうなのだ。

今まで、他の令嬢と上手く行かなかったのは、私に魅力が無かったのではない。

私は、ミレイユ様と結ばれる運命だったからなのだ」


「......」


マリウス様は、何とか体勢を立て直す。


「それで、ヴィクトルは、これからどうするのだ?」


「私は騎馬連隊の仕事があるから、もうすぐ王都に戻らなければならない。

モンテマール子爵家は、しばらくしたら、やはり王都の屋敷に戻られるそうだから、ミレイユ様も一緒に来られるそうだ」


「わたくしが、ミレイユ様の結婚披露宴のドレスをお作りするのです。

王都に来られたら、仮縫いなどもする予定です」


わたくしは、自分の作るドレスで結婚式を挙げるミレイユ様の姿を、早く見てみたい。


「ミレイユ様はあれだけの美貌だから、王都に来たら騎士達にも騒がれると思って、私は心配なのだ。

マリウスも、ミレイユ様には近寄らないで欲しい」


「ヴィクトルの結婚相手には、敬意を持って接するに決まっているだろう」


「あと半年も、こんな気持ちで過ごさなければならないのだ。

婚約発表の夜会も開かないから、私達が婚約したことを知らない男が、ミレイユ様に近づくのではないか。

もっと早く、結婚式を挙げてしまえないだろうか」


「それは心配し過ぎだろう」


「お兄様、結婚式のためにドレスを作ったり、様々な小物も揃えなければならないし、女性にとっては半年は短いのですよ」


「結婚式にはマリウスも来てくれるだろう?」


「もちろん、出席するよ」


「結婚したら、二人で王都の家の屋敷に住もうと思っているんだ。

ミレイユ様は持参金として、家の領地の隣の土地を分けてもらえるから、私もいずれ領地の経営を覚えなければと思っている」


ポンコツな兄も、結婚するとなると、自然に責任感が出来てくるらしい。


朝食が終わると、兄は(たちま)ちソワソワし出す。


「ちょっと、ミレイユ様と相談しなければならない事があるから、モンテマール子爵家に行かなければならない」


いつもそう言って、兄は馬車で出掛けて行く。

行けば、夕方まで帰ってこないのが普通だ。


わたくしが、兄の浮かれ様に呆れて見送っていると、マリウス様が近づいて来る。


「エリザ、久しぶりに散歩に行かないか?

ずっと屋敷の中で、針仕事をしていたのだろう?」


「ええ、今日は天気も良いし、たまには外に散歩するのも、気持ち良さそうですね」


わたくしは、お母様に一言出掛けると声をかけてから、マリウス様と散歩に出掛けた。


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― 新着の感想 ―
[良い点] お兄さんすごい前向き! ポンコツすぎてつらいと思ってたけど…! 『今まで、他の令嬢と上手く行かなかったのは、私に魅力が無かったのではない。 ミレイユ様と私は、結ばれる運命だったからなのだ』…
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