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モンテマール子爵家への訪問

わたくし達が、モンテマール子爵家の客間でお茶を飲んでいると、入口からミレイユ様が入ってくる。


ミレイユ様は、細い体に灰色の地味なドレスを着て、栗色の髪はピッタリと固く一つにまとめている。

そして、怖ず怖ず(おずおず)と、こちらのテーブルに近づいて来る。


兄は、ちゃんと礼儀正しく立ち上がって、令嬢に挨拶をすると、椅子を(すす)める。

ミレイユ様も、礼儀正しく兄にお礼を言うと、椅子に腰掛ける。


ミレイユ様は、全体的に言えばとても地味で、簡素な装いをしているけれど、小さなお顔に大きな瞳が濡れたように光っていて、その茶色の瞳だけで人を魅了する。


「ミレイユは、また本を読んでいたの?」


「ええ、余りにも素晴らしい詩のような物語で、我を忘れてしまったのです」


モンテマール子爵夫人はため息をつく。


「いつもこんな具合で、本ばかり読んでいるものですから、目を悪くしそうで、それが心配なのです」


「お嬢様は、詩がお好きなのですか?

私も詩が好きで、自分で詩を作ったりしているのです」


兄が勢い込んで、ミレイユ様に話す。

詩が好きな人に、兄の詩を語るのは止めた方がいいと思う。


「あら、そうでしたの?

是非、お聞かせ下さい」


「詩は神の恩寵(おんちょう)を示すものですからね」


「まぁ、ヴィクトル様は詩がお分かりになるのね!」


モンテマール子爵夫人は、うんざりしたような顔で、ミレイユ様に言う。


「そういうお話は、若い人達同士で、外のテラスで話されたら良いでしょう。

そちらにもお茶の用意をさせますから」


兄は喜んで、ミレイユ様をエスコートする。

わたくしも、外でお茶を飲んだ方が気持ちが良さそうだ。


ミレイユ様が部屋から出て、テラスのテーブルまで歩いていくのを見ていると、どうやら余り目が良くないらしい。


兄の顔も、はっきりと見えていないのではないかと思う。

ミレイユ様は人を見る時に、大きな目を少し細めて見る癖があるようだ。


潤んだ瞳で見詰められるのもドギマギするけれど、少し微笑みながら目を細める様子も妙に色っぽい。


ミレイユ様の服装は、修道女のように禁欲的だ。

灰色のドレスは長袖で、装飾もなく、パニエも入れていない。

きっちりとした上着は、首元までボタンで閉じられている。


でもそれが、逆にアンバランスな魅力を振り撒いている。


女性の肌を見せないドレスを着ても、着る人によって逆効果になる例を見て、わたくしの目から鱗がボロボロと落ちる。


もちろん、兄は、ミレイユ様の瞳の魅力にすっかりやられて、うっとりと眺めている。

兄が、女性の大きな胸以外で一目惚れするのは、きっと初めてだ。


「今度お嬢様にお会いする時までに、私は詩を作って、お嬢様にお捧げします。

お嬢様の美しさは、天上の音楽のようですから」


「まぁ、どんなに素敵な詩を書いてくださるのかしら。

とても楽しみだわ」


良くもまぁ、兄はそんな浮ついた言葉を思いつくものだと、わたくしは呆れる。


「エリザ、ちょっとエリザは、子爵家の素晴らしい庭を見てきたらどうだ?

いつも屋敷の中で手作業をしてばかりではなく、散歩も必要だろう」


兄は、わたくしが邪魔だと言いたい訳ですね。

良いでしょう。

わたくしだって、兄の背中が痒くなるような言葉を聞きたくありませんから。


わたくしは、今日の訪問にはクリーム色のアフタヌーンドレスを着てきた。

お揃いの大きな帽子も被っているので、庭を歩いても大丈夫だ。


子爵家の良く手入れをされている庭を、ゆっくりと歩いて回ると、確かに気持ちが良くなる。

叔母様や兄の言う通りに、こうした戸外の散歩も必要だろう。


広い庭には、少し盛りを過ぎた花壇が所々にあって、芝生に花びらが落ちて散っている。

わたくしが、領地まで持ち込んできたレース(つづ)りに、新しいアイディアが閃く。


平らなレースに、立体的にレースの花を綴じつけたら、どうだろう?

わたくしは思い付きを試したくて、早く家に帰りたくなる。


急いで兄達のいるテラスへ戻ると、何だろう、兄達の雰囲気が甘くなっている。

ミレイユ様はぽっと上気して、兄をうっとりと見詰めているではないか。


兄もこんな展開は初めてなせいか、すっかり浮かれて、はしゃいでいるようだ。

わたくしが近付いて行っても、兄は気付かない。


「ミレイユ様は、一目で私の心を奪ってしまいました。

私の心は、いつもミレイユ様と共にあります。

もし、私がミレイユ様から離れると、私の心は空虚になってしまうでしょう」


「まぁ、ヴィクトル様、それではどこにいても、二人の心はいつも一緒にいるという事でしょうか」


兄の場合は、心が空虚、と言うよりは、頭が、と言った方が良さそうだけれど、恋は盲目とも言うから、二人で目が見えなくなっているのかもしれない。


リュシアン様がマルグリット様とベタベタするのも、ちょっと食傷気味(しょくしょうぎみ)だったけれど、家族が甘い雰囲気になるのは、さらに恥ずかしく、直視できなく感じるものだ。


わたくしは、テラスからそっと引き返して、お屋敷の客間に向かう。

両親達は、近隣の噂話や、領地の作物の出来等を話している。


「あら、エリザ、ヴィクトルやお嬢様はどうしたの?」


「お二人は、テラスで詩の話をしていますわ。

もうお互いを名前で呼んでいらっしゃるから、すっかり意気投合なさったようですね」


お互いを名前で呼び合うというのは、家族以外では、かなり親しくなった、という印だ。

初対面で、名前を呼ぶようになったのだから、お互いに気に入ったと言う証だ。


お母様と子爵夫人は、顔を見合せる。


「これからも、色々とお付き合いが続きそうですが、よろしくお願いいたします」


「こちらこそ、お願いいたしますわ」


親同士で、暗黙の了解が結ばれた事を、兄は未だ知らない。


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