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ローシュ公爵家の婚約披露の夜会

もう二度と、リュシアン様からお茶会や夜会への招待は無いだろうと、思っていたのだけれど、マルグリット様との婚約披露の夜会への招待状が届いた。


叔母様と連名だったので、マルグリット様が配慮してくれたのかもしれない。

マルグリット様にお作りした、薔薇のイブニングドレスがとても好評だったおかげか、ウェディングドレスも叔母様のクチュリエールで受注出来たのだ。


しかも、マルグリット様の希望が通って、ふわふわと柔らかなデザインでドレスをお作りすることになった。

叔母様は、真っ白なシルクシフォンとレースを大量に買い込んだので、クチュリエールの棚の一つがウェディングドレスの生地で埋め尽くされている。


叔母様はマルグリット様にお見せするために、たくさんの生地を仮予約していたのだが、生地とデザインが決まったので、その生地とレースの他に、キャンセルした見本の生地も買い取った。


見本の生地は、それぞれの素材は素晴らしいのだが、生地の面積が小さ過ぎるのでドレスには使えない。

叔母様は、こういう生地も全部わたくしに下さる。


わたくしは、古いドレスに使われたレースや、一部が裂けてしまったレースなどを継ぎ合わせて、大きな生地に作り変える予定だ。

この生地を使って、いつか総レースの自分のドレスを作りたいと思っているからだ。


レースをじっくりと眺めて......これをここに置いて......その周りをこの細いレースで縁取って......と、あれこれ考えるのが最高に楽しい。


どんなに気分が落ち込んでいる時でも、生地やレースに触れていると、嫌なことも忘れてしまえるのだ。




リュシアン様の婚約披露の夜会は、たくさんの招待客で溢れんばかりだった。

ローシュ公爵家の方々が、広間の前に並んで招待客の挨拶を受けている。


「御婚約、おめでとうございます」


「本当に、美男美女のお二人ですこと」


「きっとお二人はご婚約なさると思っていましたわ」


「とてもお似合いの縁組みでございますね」


招待客の称賛が続く。


叔母様とわたくしの挨拶を受けると、リュシアン様は片方の眉を(わず)かに上げる。


リュシアン様の隣には、素晴らしい薔薇のドレスに身を包んだマルグリット様が立って、招待客に挨拶をしている。


「私が愛して止まない、美しい婚約者を紹介しましょう、マルグリット......」


リュシアン様は、マルグリット様に呼びかけ、肩を抱き寄せると頬にキスする。

マルグリット様は一瞬で真っ赤になるけれど、嬉しそうにはにかんで、リュシアン様を見つめる。


「ねぇ、マルグリット、幸せかい?」


「ええ、リュシアン様、もちろんですわ」


周りにいた人たちは、二人の熱気に当てられながらも、仲の良い様子を微笑ましく見ている。


「わたくし達にわざと仲の良さを見せ付けるなんて、リュシアン様も大人げないわね」


広間の中に入ってから、叔母様はわたくしに耳打ちする。

叔母様は、リュシアン様に批判的だ。


でも、わたくしは、それでマルグリット様がお幸せになるならば、それで良いと思う。

マルグリット様は素直で、人の悪口を決して言わないから、わたくしはマルグリット様が好きなのだ。


「きっとエリザに、嫉妬させようとしているのだと思うわ」


「わたくしはとても嫉妬深いと、あんなに強調すべきではありませんでしたね」


それで、マリウス様にもからかわれたのだ。


今夜はリュシアン様とマルグリット様の婚約披露の夜会なので、ダンスを踊る時も、広間を巡って挨拶をする時も二人は一緒にいる。


わたくし達の近くに来ると、リュシアン様はマルグリット様を引き寄せて、何事か囁いたり、じっと見詰めたりする。

その度に、マルグリット様は頬を染めて嬉しそうにリュシアン様に寄り添う。


まぁ、婚約披露の夜ですし、お好きなようにイチャイチャしても良いのではないでしょうか。

わたくしには、全然関係がありませんから。


それよりも、レオンティーヌ様が新しいデザインのイブニングドレスを着ているので、わたくしはそのドレスに引き付けられる。


以前の、総レースの超豪華なドレスも見応えがあったけれど、今夜のドレスも素晴らしい。

美しい光沢を放つ象牙色の絹に、金モールで装飾されている。


ちょっと、近衛連隊の制服にも印象が似ている。

レオンティーヌ様の金髪にも良く似合っているし、リュシアン様の近くにいると、お揃いのようにも見える。


レオンティーヌ様は、一体何着のドレスを持っているのだろうか。

今夜はあまり踊ったりしないで、たくさんのお嬢様達のドレスを観察したいものだ。


レオンティーヌ様の近くにそっと近寄って、さりげなくドレスを観察していると、レオンティーヌ様の取り巻きのお嬢様が言う。


「まぁ、リュシアン様は、随分と見せ付けるような事をなさるのね。

以前は、マルグリット様にあまり興味を持たれていなかったのに、マルグリット様が最近ぐっとお美しく変わられたせいかしら?

今夜のドレスも、本当に良く似合って」


レオンティーヌ様は、イライラとした口調でそのお嬢様の言葉を遮る。


「お兄様は、以前から、ブレヴィル公爵令嬢と結婚が決まっていたようなものですもの。

何故急に、マルグリット様に熱を上げているのか、わたくしには分かりませんわ。

皆様の目の前で、あのようにベタベタして、見苦しいこと」


わたくしは、レオンティーヌ様がマルグリット様を支持しているのだとばかり思っていたのだが、どうやらそうとばかり言えないようだ。


リュシアン様は、多数のお嬢様達の憧れの的だったから、婚約者のマルグリット様には風当たりが強そうだ。

それだけではなく、兄を愛しすぎる妹も、妻としては付き合いが大変かもしれない。


怖い、怖い。

マルグリット様は、何とか頑張ってほしい。





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