お互いの誤解が解けました
「いつか公園で、マリウス様は、ルイーズ様と散歩していましたよね。
あの頃は、ルイーズ様とお付き合いしていたのですか?」
わたくしは、ルイーズ様が兄の求婚を受け入れた事に安心して、ようやくマリウス様に直接尋ねる勇気が出る。
「いや、あの時は、連隊長に頼まれて、ルイーズ様をお屋敷に送り届けただけだ。
それよりも、エリザは、ローシュ候爵にスカーフを手渡すだけではなく、首に結んで差し上げていたじゃないか」
やっぱり公園のガゼボの中で、リュシアン様にスカーフをお渡ししていたのを、マリウス様は見ていたのだ。
「エリザは、ローシュ候爵に結婚を申し込まれたら、もちろん承諾するのだろう?」
「いいえ、マリウス様は誤解なさっています。
リュシアン様には、お好きな方がいらっしゃるのです。
わたくしは仕事として、スカーフをお作りしたのです」
「でも何故、公園でスカーフを手渡す必要がある?
公爵家に届ければ良いのではないか」
「ええ、ちょっとした訳があって、内緒でお渡ししなければならなかったのです。
その訳は、契約がありますから、誰にも言えません」
「今夜だって、ローシュ候爵はエリザをダンスに誘っただろう?
仕事の上の付き合いだったら、どうしてあのリュシアン様がエリザを誘うんだ?」
「それは、以前ダンスのお約束をしていたのに、色々と不都合があって今まで踊れなかったのです。
リュシアン様は約束を忘れずに、お誘い下さっただけです」
「それでも、エリザはリュシアン様が好きなのだろう?」
「ええ、好きですわ。
とてもお美しいし、誰にでも優しく丁寧ですし、お見舞いもたくさん下さいましたし。
お母様も叔母様も、リュシアン様が大好きですし、あの方を嫌いな人を見たことがありませんわ」
あのお見舞いのボンボンショコラのためだけでも、好きにならずにはいられないのだ。
「それでは、マリウス様はルイーズ様がお好きですか?」
「それはそうだろう。
美人だし、気性もさっぱりとして、はっきりと物を言われるし、連隊中の騎士が皆憧れているのだ」
「マリウス様は、ルイーズ様が兄の求婚を受け入れたのは悔しいですか?」
「いや、予想できなかったから、とても驚いたけれど、ヴィクトルの望みが叶って良かったと思っているよ。
ただ、これがいつまで続くのかは、ちょっと分からないけれど」
「わたくしがリュシアン様を好きなのは、それと同じですわ。
リュシアン様には、お家柄も美貌も相応しいお嬢様と結婚して、お幸せになっていただきたいと思いますもの」
「では、エリザはリュシアン様と結婚する気持ちは無いの?」
「リュシアン様が、わたくしに求婚する筈も無いです。
第一、わたくしとリュシアン様とでは、住む世界が違いすぎます。
わたくしは、ドレスを作る仕事が楽しいし、叔母様のクチュリエールも辞めたくないのです」
私だけが知っているのだけれど、リュシアン様は、妃殿下に秘密の恋をしているのだ。
マリウス様は黙った。
「......エリザ、私はエリザに幸せになってほしいと、ずっと思っているんだ。
だから、エリザが自分で一番幸せになれると信じられる道を選んで欲しい」
「ええ、あの事件の後で、わたくしは分かったのです。
少々嫌な思いをしても、わたくしはドレス作りを辞めないし、わたくしが作ったドレスを着た人が、幸せになってほしいのです」
わたくしは、ブレヴィル公爵令嬢のマルグリット様を思い浮かべる。
リュシアン様が妃殿下との許されぬ恋を諦めて、マルグリット様と結婚するのが一番収まりが良いのだろう。
ただ、他の人に想いを残したまま結婚して、リュシアン様はお幸せになれるのだろうか?
そして、マルグリット様は、そんなリュシアン様を愛し続けられるのだろうか。
マリウス様は、自分の両手を膝の上で組んで、低い声で言う。
「エリザ、私はエリザが自分の好きな、夢中になれる事をして、いつも笑っていてほしい。
そのために私が力を貸したいけれど、私には騎士の身分と僅かな母の遺産があるだけだ。
エリザに、好きなドレスを買ってあげる事も出来ないのだ」
マリウス様の暗い声に驚いて、わたくしはマリウス様に向き直る。
「マリウス様は、わたくしを助けてくれたではありませんか。
それに、わたくしが辛い時に抱きしめてくれたではありませんか。
わたくしはそれでまた、元気になれたのです」
「私は、エリザを抱きしめる事ぐらいしか出来ないのだな」
何故か、マリウス様が落ち込んでいる。
わたくしは何とか、マリウス様を慰めたかった。
「それでも良いじゃないですか。
マリウス様は、わたくしを守ると言って下さったのですから、しっかりと抱きしめて、わたくしを守って下さいませ」
わたくしは、マリウス様に微笑む。
マリウス様はベンチから立ち上がると、わたくしをギュッと抱きしめた。
そして、わたくしの髪に顔を埋める。
「エリザ、ありがとう」
何故か、お礼を言われた。
「さあ、広間に戻りましょう。
お兄様は、ルイーズ様のご両親に上手くご挨拶できたかしら?
この話を聞いたら、お母様はすっかり興奮して、大騒ぎなさるでしょうね」




