国家的な秘密(?)を知りました
わたくしは、気付いてしまった事実に茫然とする。
まさか、リュシアン様の想い人が妃殿下だったとは!
けれど、そう考えると、今までのリュシアン様の行動の意味がよくわかる。
賦与を付けたスカーフを作るのを秘密にして、納品も公爵家に届けるのではなく、公園で密かに受け取ったのだ。
レオンティーヌ様は、リュシアン様の賦与を掛けたスカーフの事を知っていた。
妹のレオンティーヌ様には、恋する気持ちを打ち明けていたのだろうか。
先日レオンティーヌ様が奥歯に物が挟まったような言い方をされたのは、リュシアン様の秘密を知っていたからに違いない。
そして、リュシアン様がスカーフの最初の一枚を急がせたのは、王弟殿下ご夫妻に従って隣国に行かれる前だった。
周りの目がたくさんある国内にいる時よりも、外遊先の方が色々と融通が利くだろう。
まして、外遊先のウルム公国は、妃殿下の育った国なのだ。
妃殿下の意を汲んで、動ける人もいると思う。
リュシアン様は、周りに人のいない折を見つけて、妃殿下にそっと賦与を掛けたスカーフをお渡ししたのだろう。
『リュシアン様、これは何でしょうか?』
『私の想いを込めたスカーフです。
どうか私と思って、お側に置いてくださいませんか』
『まぁ、いけませんわ、リュシアン様。
わたくしには、王弟殿下がいらっしゃいます』
『それはよく知っています。
けれども、私の想いはもう止められないのです』
『そんなことを言ってはいけません。
リュシアン様......だめ、おやめになって......』
「エリザ......エ、リ、ザ......聞こえる?エリザ!」
わたくしは、マリウス様に肩を掴まれて、揺さぶられていた。
ハッと気付いて、わたくしは赤面する。
わたくしは一人で勝手に、妄想していたらしい。
「顔が赤くなっているけれど、熱でもあるのかな?
どこか具合が悪いの?」
「いいえ、いいえ、何でもありません。
余りに素晴らしいドレスを見たので、自分にも作れたら、と思って想像していたのです」
「何だか嬉しそうに考え事をしていたのは、そのせいだったの?
エリザはドレスの事となると、夢中になってしまうんだね」
ちょっと内容は違うんですが、マリウス様には黙っていよう。
「さあ、私とダンスに行こう。
エリザは、私と最初に踊ってくれるね」
「ええ、もちろんですわ」
わたくしとマリウス様は、大広間に歩み出る。
マリウス様は、ダンスがとても上手で、リードも巧みだ。
マリウス様と踊ると、わたくしまでダンスが上手になった気になる。
「今日のエリザは、いつもよりも嬉しそうで、表情が輝いているよ」
「ええ、素晴らしいドレスを沢山見て、ダンスの上手なマリウス様と踊って、それがとても楽しいのです」
「今日もエリザは、たくさんの人から、ダンスを申し込まれそうだね。
でも、今夜の最後のダンスは、また私と踊ると約束してくれないか」
「ええ、良くってよ。お約束します。
マリウス様こそ、忘れないでね」
マリウス様と踊っていると、ブレヴィル公爵令嬢のマルグリット様と踊っているリュシアン様が見えた。
マルグリット様は、ワイン色のイブニングドレスを着て、リュシアン様に微笑みかけている。
リュシアン様も微笑んで話しているけれど、妃殿下と踊っていた時とは熱量が違って見える。
わたくしは、他の人が知らない国家的な秘密(?)を知っているのだ。
そう思うと、心の底からワクワクと興奮が立ち上って来る。
わたくしは、次々とダンスを申し込まれる。
リュシアン様の交遊関係なのだろうけれど、白い儀典用の制服を着た近衛連隊の方も多い。
わたくしが騎士の方と話していると、後ろの方で聞いたことのある声がする。
顔を巡らせて見ると、移り気で軽薄なユベール様だった。
今日の夜会でデビューしたばかりのような、若いお嬢様にダンスを申し込んでいる。
「初めてデビューしたお嬢様と、この夜会でお会いできたなんて、私は何て運が良いのでしょう。
私は、初めて見た時から、美しいお嬢様に心を奪われたのです」
ユベール様は、わたくしが以前聞いたのと同じような言葉で、若いお嬢様に取り入ろうとしている。
「ぜひ、私と最初に踊って下さいませんか?」
デビューしたばかりのお嬢様に、ユベール様の真実の姿を、後でこっそり教えて置いた方が良いだろうか。
「キュルト子爵には審美眼がお有りになるのね。
わたくしと最初に踊る幸運を掴むのですから、運がよろしいのは確かですわ。
まぁ、レオンティーヌ様と張り合えるのは、わたくしぐらいでしょうけれど、わたくしの方がもっと若いですしね」
わたくしは、その若いお嬢様の言葉を聞いて、何も口出ししない事に決めた。
世の中には、理解不能な人も多いと、自分で悟ることも必要だ。




