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王弟殿下と妃殿下がご臨席されます

リュシアン様に招待された夜会の日になった。

ローシュ公爵家は、たくさんの招待客で溢れ返っている。

シャンデリアが輝き、きらめく宝飾品を身に(まと)った人々が行き交っている。


「さすがに、王弟殿下のご臨席される公爵家の夜会は、華やかねぇ。

わたくしが着ている古いドレスでは、気後れしてしまうわ」


お母様は周りを見回して、自分のドレスに目を落とす。


「エリザが、綺麗に直してくれたじゃないか。

私には新しいドレスのように見えるよ」


お父様が、お母様を慰める。

この後、自分に非難の矛先が向かないように手を打ったのだ。


「公爵家の夜会に招待されると、もっと早く分かっていれば、ドレスを作れたのに残念ですわ」


「......それにしても、リュシアン様はエリザに丁寧にご挨拶下さったね」


お父様は話を変える。


「ええ、本当に。

儀礼的にではなく、心から歓迎してくださいましたわ」


確かに、リュシアン様はわたくしに会えて嬉しいと、はっきりと言ったのだ。

兄とマリウス様も、一緒にリュシアン様にご挨拶したのだけれど、二人にもニッコリ笑って握手をしていた。


かなり広いローシュ公爵家の大広間が、人でいっぱいになった頃、王弟殿下と妃殿下のご臨場が告げられる。

訪問客は、広間の入口から奥に設けられた特設席まで、通路を作って並ぶ。


こうした時にも、自然に貴族の階層によって立ち位置が決まるので、わたくし達は広間の入口近くに立つ。

赤い絨毯が敷かれた玄関の入口から、王弟殿下が妃殿下をエスコートして入って来られた。


王弟殿下は金髪で、目の色は深いブルー、立派なあご髭を生やしている。

背も高くて、堂々とした体格だ。


妃殿下は、黒髪で、大きな黒い瞳が印象的なエキゾチックな美女だ。

豊満な胸元を広く開けて、大玉の真珠と大きなルビーがあしらわれた首飾りが光っている。

艶のある黒髪は綺麗に結い上げられ、首飾りとお揃いの髪飾りが美しい。


妃殿下は、隣国ウルム公国の公女様だったが、三年前に王弟殿下とご結婚された。

わたくしはその時、修道院にいたので、妃殿下とお会いするのはこれが初めてだ。


王弟殿下と妃殿下は、微笑みを浮かべながら、両側の貴族にゆっくり(うなず)いて挨拶される。

お二人が目の前に近づくと、招待客の女性は膝を曲げて挨拶をする。

高位の親しい貴族には、一言、二言、声を掛けられる。


わたくしは、何一つ見逃すまいとしっかり目を見開く。


妃殿下のドレスは、張りのある黒いシルクに、金糸で細かく全面刺繍が施されている。

刺繍だけではなく、所々に真珠も縫い込まれているという、超絶豪華版だ。


わたくしはこのドレスが見られただけで、もう今日の夜会に出た甲斐があるというものだ。

それにしても、黒地に金の刺繍のドレスとは、誰にでも似合うドレスではない。


これだけ豪奢(ごうしゃ)なドレスは、着る人を選ぶ。

細くて小柄な方や、優しげで(はかな)い印象のお嬢様では、ドレスに負けてしまうのだ。


その点、妃殿下は大柄で胸も豊かで、くっきりとカーブを描く眉も、大きく見開かれた黒い瞳も、このドレスにピッタリで、とてもお似合いだ。


わたくしは小柄で、胸もそれほど大きくないので、このようなドレスは着こなせないけれど、いつの日か、こんな素晴らしいドレスを作ってみたい。


ドレスの価格も作る期間も無制限で、その人に本当に似合うドレスを作れたら、どんなにか幸せだろう。

わたくしの賦与を掛けたドレスで、着る人が幸せになれたら、これほど嬉しいことはない。


わたくしは、うっとりと妃殿下の後ろ姿を見送る。


「何とご立派な、王弟殿下でございましょう。

妃殿下もお美しい方でしたね」


お母様も、満足そうにお父様に(ささや)く。

こんなに近くで王弟殿下と妃殿下にお会いできたのは、お母様も初めてだそうだ。


「エリザは、美しいドレスが見られて嬉しそうだね」


わたくしの近くに立っていたマリウス様が、わたくしの耳元に身を屈めるようにして言う。


「本当に妃殿下のドレスは素敵ですわ。

あんなドレスが作れたら、どんなに素晴らしいでしょう!」


「エリザは、あのようなドレスが着てみたいの?」


「いいえ、あんなドレスはとても着こなせませんわ。

わたくしが着るのではなく、作ってみたいのです」


「いつか、作れるようになると良いね」


マリウス様は、わたくしを見て微笑む。


「ええ、本当に!」


その時、広間に舞踏曲が鳴り響き、王弟殿下がレオンティーヌ様の手を取って踊りはじめる。

続いて妃殿下が、リュシアン様と手を取り合って、踊りに加わった。


本来であれば、夜会の主催者であるローシュ公爵が妃殿下と踊られるのだが、公爵は膝を痛めているので、長男のリュシアン様がダンスの代理を務めるそうだ。


レオンティーヌ様は、以前と同じ総レースの豪華なイブニングドレス姿だ。

微笑みながらワルツを踊ると、光を帯びたように輝く金髪の巻き毛が揺れる。

この広間の中で、一番の若い美女と言って良いだろう。


そしてリュシアン様は、近衛連隊の真っ白な生地に、金モールの付いた儀典制服を身に纏い、優雅に妃殿下をリードして踊っている。

リュシアン様も背が高く、肩幅が広くて立派な体格なので、妃殿下と並んでも迫力で負けていない。


この二組の踊り手よりも、美しく優れた踊り手はいないから、誰も遠慮して踊り出さない。


リュシアン様は、わたくしがお作りしたスカーフを首に巻いているのが見えた。

黒の絹地に金色でリュシアン様のお名前を刺繍したスカーフだ。

『好きな人に振り返ってもらえる』賦与を付けたスカーフだ。


わたくしは気づいてしまう。

妃殿下の、黒地に金色の刺繍をしたドレスと、リュシアン様の黒地に金色の刺繍をしたスカーフの一致に。


ドレスの色と、小物の色をお揃いにするのは、相愛の印だ。

リュシアン様が、スカーフの色や賦与にこだわった訳はこれだったのか。


リュシアン様が、何かを妃殿下に言いかけ、妃殿下は妖艶ににっこりと笑う。

リュシアン様の秘密の想い人は、妃殿下だったのだろうか!



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