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ようやく足が治りました

次の日の夕方遅く、久し振りにマリウス様がクチュリエールに訪ねて来た。

わたくしは、マリウス様に走り寄る。


「マリウス様!ようやく来て下さったのね!」


勢いのまま飛びついたわたくしを抱き止めて、マリウス様は、驚いたようにわたくしを見る。


「どうしたのだ?」


「マリウス様は、いつもわたくしを助けてくれていたのですね」


「えっ、何の話だろう」


マリウス様はしらを切るつもりだ。


「リュシアン様が部下に今回のことを調べさせていて、総て話してくれたのです。

マリウス様が、表沙汰にならないように上手に、オーベール商会に反撃してくれたのですね」


「......リュシアン様が......あの男が、そうだったのか」


マリウス様も、リュシアン様の部下に気付いていたようだ。


「マリウス様、その手の怪我はどうされたのですか?」


マリウス様は手の甲に怪我をしている。

治りかけの瘡蓋(かさぶた)になっている。


「もしかして、その時に怪我をしたのでしょうか?」


「いや、これは連隊の訓練中に、ちょっと擦っただけだ」


「怪我をするような危ない事は、なさらないで下さい」


わたくしはマリウス様の手を取って、傷の上にそっと口づける。

マリウス様は手を引こうとしたけれど、わたくしは放さない。


「でも、わたくしを守ってくれて、ありがとうございます」


マリウス様のお顔を見上げると、赤くなったマリウス様は、わたくしから目を逸らす。

それでも、マリウス様は、わたくしに握られた手を振りほどかなかった。


「わたくしからもお礼を言いますよ、マリウス様」


叔母様もお礼を言うと、マリウス様は照れてしまう。


「いいえ、お礼を言われるような事はしていませんから」


「今夜は、ゆっくりできるのでしょう?

夕食を一緒に食べて行きませんか」


久しぶりにマリウス様も一緒の夕食は、和やかな話題が続き、とても楽しかった。


夕食の後で、男性達は食後のお酒を飲み、わたくしと叔母様はお茶を飲みながらサロンで話を続ける。

マリウス様はわたくしの近くに座って、兄の話もする。


「ヴィクトルは結局、私のいない間に、連隊長のお嬢様のルイーズ様に詩を渡してしまったのだ」


「何ですって!わたくしが渡さないようにと、あれだけ止めたのに」


兄が作る詩なんて、きっと読んだらゾワゾワするに違いない代物だろう。


「ところが、ルイーズ様はその詩が気に入って、ヴィクトルにその詩の説明までさせて、その後、毎日のように公園で散歩しながら、二人で話しているらしい」


「えっ、ルイーズ様はそういう趣味だったのかしら?」


わたくしはルイーズ様のお顔を思い出す。

美しい金髪にエメラルド色の瞳の、ゴージャスなお嬢様だ。


おまけに、胸が大きく、ウエストはキュッと締まっていて、スタイル抜群で乗馬も得意だという欠点のない子爵令嬢だ。


貧乏男爵の長男で、運動神経が悪くて、顔も平凡な兄とは正反対といって良いのだ。


「とにかく、ヴィクトルはすっかり浮かれて、私にルイーズ様の話ばかりするし、連隊の訓練中にもぼんやりして危なっかしいのだ」


「それは、そうなるでしょうね。見えるようだわ」


ちょっと綺麗なお嬢様と、少し話しただけでも(好意を抱かれている)と勘違いして、のぼせ上がる兄だ。


それが、ルイーズ様のような美女と二人で公園を散歩したりしたら、頭の中に蝶々が飛ぶだろう。


「いつルイーズ様にプロポーズしたら良いだろうとか、そういう相談もして来るのだ」


ようやく兄にも春が来たようだけれど、それと結婚は別だろう。

ルイーズ様は、結婚しようとしているのではなく、気まぐれに兄と散歩しているのに違いない。


そのうちルイーズ様は兄に興味を失って、話もしなくなるだろう。

今まで何も始まっていなかった時とは違って、兄は初めて『失恋した』と言う資格ができるのを良しとすべきだ。


もちろん、兄はものすごく落ち込むだろうから、その時は精々慰めてあげよう。


「結婚なんて無理な話でしょうね」


「現実を見れば、多分そうだと思うよ。

でも、ヴィクトルはいずれ男爵になれるだろうから、可能性はゼロではないのかな」


わたくしは、ルイーズ様が結婚したいほど兄を好きにならないと思って言ったのだけれど、マリウス様は貴族の位を気にしたようだ。


「えっ、爵位は関係無いでしょう。

それよりも、本当に愛せるかどうかが大事ですわ」


「愛だけでは、好きになれても、結婚はできないだろう」


「わたくしだったら、相手の地位ではなく、本当に信頼し、尊敬できる人を選びます」


「それは、エリザの理想論だよ」


「わたくしは叔母様を見ていると、今の姿が一番楽しそうだし、充実もしていると思いますわ」


「あなた達は、何を話しているの?」


叔母様が話に加わる。


「お兄様が、ルイーズ様と毎日散歩しているのですって!」


「まぁ、そんな奇跡があるのね!

ルイーズ様はあんなに美しいのに、男性を見る目が無いのかしら?」


叔母様は、かなり兄に失礼なことを言っている。

食べ物の恨みは怖い。


「自分が綺麗だと、表面的な美醜にはこだわらなくなるのかしら?

毎日会って話をすれば、性格やら何やら分かって来るから、まあ、すぐにヴィクトルの恋は終わってしまうでしょうけれど」


叔母様も、わたくしと同意見のようだ。


夜も更けてきたので、マリウス様は帰る挨拶をする。


いつもよりも強くわたくしを抱きしめて、額にキスをしたマリウス様は、少しお酒に酔っていたのだろうか。


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― 新着の感想 ―
[良い点] マリウスととてもいい雰囲気なのに兄のへっぽこエピソードが痛烈でそっちに気を取られる…!! 叔母様の現実主義が的確過ぎて草生えますね…wwww
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