表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
35/70

リュシアン様が部下の報告を話してくれました

それから二日間、マリウス様はクチュリエールに姿を現わさなかった。

それまで毎日、お見舞いに来てくれていたのに、パタッと来なくなったのが心配になる。


しかも兄から、いかがわしい酒場の踊り子に通い詰めている、という話を聞いた後なので、不安になって要らぬ心配をしてしまう。


三日目になって、今日マリウス様がもし来なかったら、兄に問い合わせをすべきだろうかと悩んでいたら、リュシアン様の来訪が告げられた。


叔母様は、全力の笑顔でリュシアン様をお迎えする。


「候爵閣下、先日は素晴らしいお見舞いの品々を頂きまして、本当にありがとうございました。

わたくしもエリザも、お茶の時間を満喫いたしましたわ」


「喜んで頂けたようで何よりです。

今日は、先日の件で、ちょっとお知らせに来たのです」


リュシアン様は、叔母様に人払いをお願いする。

叔母様の小間使いは、お茶の用意だけをして、引き下がった。


「実は、私は、襲撃の犯人を部下に探させていたのです。

下町には、報酬次第で汚い仕事を引き受ける、食い詰め者達がいるのです。

そのうちの一人があの事件以後、急に羽振りが良くなって酒場に出入りしていたのです」


あれ?確か、兄も似たような話をしていたのだ。

マリウス様が、下町の酒場に毎日入り浸っていると。


「それで、部下は気取られないように尾行をしていたのですが、その男は酔って酒場から出た後、横丁に入ったと思ったら、姿が見えなくなったのです」


「尾行を気付かれたかと、付近を探していると、ガラガラと物が崩れる音がして、その男が積んであった建築資材の中に倒れていたのだそうです」


「酔ってフラフラと歩いて転んだのか、顔や手に何カ所か怪我はしていたのですが、命には別状ありませんでした。

近づいて、どうしたのだ、と聞いても、自分でも何が起きたのか、訳が分からなかったようです」


「ところで酒場には、その男と顔見知りのような、太った中年の男が、毎日のように来ていたのです。

酒と、カード賭博が目的のようでした」


「中年の男は、酒場にいた踊り子にご執心で、注意を引くためにか、金遣いが荒かったそうです。

更に調べると、中年の男性はオーベール商会の執事で、昨日、店の金を有るだけ全部持って、踊り子と行方をくらましたらしいのです」


「元々オーベール商会は資金繰りに窮していて、今回の執事の出奔が最後の一押しになったらしく、破産してしまったようです。

さっき、商業街を通って来たら、オーベール商会には債権者が詰めかけていました」


わたくしと叔母様は、顔を見合せる。

オーベール商会は破産寸前だったから、仕立て物の値段を吊り上げ、わたくしたちにも嫌がらせをしたのに違いない。


それとも、元々そういう危うい仕事の仕方を続けて、顧客の信頼を失ってしまったのだろうか。

とにかく、わたくし達を脅した競争相手はいなくなったのだ。

もう、嫌な思いをしなくて済むのだ。


「それから、その酒場にはもう一人、黒髪で精悍な若い男が毎日通って来ていたのです。

踊り子は、その若い男に気があったらしいのですが、それを見て、オーベール商会の執事は、踊り子を取られまいと焦ったようなのです」


わたくしは、兄の話が頭の中に甦る。

マリウス様が、踊り子を贔屓にしている噂があると言っていた。

その黒髪の若い男というのは、きっとマリウス様だ。


「そして、もう一つ、食い詰め者の男が横丁から消えた後で、部下は、その若い男が横丁から出てきたのを見たそうです」


リュシアン様は長い話を終えて、黙り込んだ。


「......私は、この若い男が、一連の出来事の鍵を握っているように思えるのです。

お二人には、何かお心当たりがおありでしょうか?」


「はい、それは多分、わたくしの兄の乳母子のマリウス様だと思います。

兄とマリウス様は、同じ連隊の騎士をしているのです。

わたくしとマリウス様は兄弟のように育ちましたので、わたくしは兄のように思っています」


「男爵令嬢には、兄弟のように頼れる人がいたのですね」


「えぇ、この事件が起きた時、わたくしはマリウス様に、以前オーベール商会のご主人に脅された話をしたのです。

それで、多分、マリウス様は、仕返しをしたのだと思います」


マリウス様は子供の頃、わたくしの悪口を言った村の乱暴な少年を、ボコボコにしたことがあったのだ。

今回もきっと、同じ事なのだろう。


「わたくしが、公園でスカーフをお渡しした時に、候爵閣下はマリウス様にお会いしていらっしゃいます」


「あぁ......思い出しました。

騎士連隊のボージール連隊長のお嬢様と一緒に、公園を散歩されていた方ですね?」


「はい、そうです」


その後、マリウス様はルイーズ様と会っているのだろうか。


「そう言う事情であれば、もうこれ以上、詮索は止めましょう。

もう、男爵令嬢に危険は及ばないと思います」


それにしても、リュシアン様が部下に調べさせなかったら、この真相は分からなかったに違いない。

わたくしはこんな風に、今までも何も知らずにマリウス様に守られていたのだろうか。


「私は詳しい事をお聞きしませんでしたが、男爵令嬢はドレスを作る時にも色々と苦労されていたのですね。

危ない目に遇わないように、これからは仕事ではなく、趣味として作られたら如何でしょう。

誰か一人のために賦与を掛けて作るのも、意義のある事だと思いますが」


「わたくしは今回の事があって、ドレス作りはわたくしの天職だと改めて思ったのです。

候爵閣下のお話を聞いて、危険は去ったと安心しましたし、わたくしは、これからも仕事は続けて行くつもりです」


リュシアン様は、ジッとわたくしの顔を見る。


「男爵令嬢は、しなやかで強い心をお持ちなのですね。

......さて、私も、男爵令嬢を守ってくださった騎士と、もう一度お会いしてみたいものです。

今度の夜会には、お兄様とマリウス様にも招待状をお送りしましょう」


リュシアン様は、ご親切にもわたくしの一家全員を夜会に招いてくださるようだ。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ