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ボンボンショコラのお茶の時間です

リュシアン様が帰ると、お母様はとても饒舌になる。


「まぁ、候爵様はなんて素敵な方でしょう!

わたくしが、あと十歳も若かったら......

エリザはいつの間に、候爵様とあんなにお近付きになっていたの?

お忙しい中を、わざわざお見舞いにいらっしゃるなんて!

エリザを気にいって頂いたのかしら?」


「お母様、リュシアン様はいつでも、誰にでも丁寧でお優しい方なのですよ。

それにわたくしは、お仕事でお会いしているだけなのですから」


「でも、仕事だけのお付き合いで、夜会に何度もご招待頂けないでしょう?」


わたくしは、説明に困ってしまう。

リュシアン様には秘密の想い人がいて、その方のために賦与を付けて欲しくて、わたくしを贔屓にして下さるのだ。

でもそれは、誰にも言えない秘密なのだ。


「候爵様は、わたくし達にも改めてご挨拶したいなんて、おっしゃったけれど、まさか、エリザに求婚なさるおつもりでしょうか」


お母様の妄想は止めどない。


「まさか、そんな事は有り得ないだろうな」


お父様は現実主義者だ。


「あら、そんな夢のような事が、もしかしたら起きるかもしれないじゃありませんか。

そうだわ!まぁぁ、どうしましょう!わたくしのドレス!

王弟殿下がご臨席されるような、格式の高い夜会に着て行けるドレスを、急いで作らなければなりませんわ!」


「まぁ、おまえ、ちょっと落ち着きなさい。

私達は、エリザの様子を見に来たのだよ」


お父様は、お母様をたしなめる。


「あぁ......そうでしたわ。

それではエリザは、ガブリエール叔母様の所でドレスを作っていたいのね」


「ええ、まだ足がすっかり治っていないので、外には出られませんし、ドレスを作っていた方が楽しくて、気が紛れるのです」


「分かったわ......エリザがそう望むなら、そうしましょう。

ガブリエール、エリザを宜しくお願いしますよ」


ガブリエール叔母様はドレスの注文が重なっていて、とてもお忙しい。

わたくしの両親と話していても、お針子の助手が指示を聞きに来たり、生地問屋に注文していた荷物が届いたりと、用事が次々に入る。


両親も落ち着かない様子で、早々に帰って行った。


両親が帰った後で、リュシアン様からお見舞いとして大きな花籠が届く。

色とりどりの美しい花が、籠から零れるように咲いている。


これには叔母様も感嘆する。


「まあ、なんて綺麗な花籠かしら!

早速このテーブルに飾りましょう」


大きな花籠なので、叔母様の居間がパッと明るくなる。


そして更に素晴らしいのは、高級なボンボンショコラの包みもあったのだ!

ボンボンショコラ!


ラム酒やシロップに漬けられた果物やナッツを、ショコラ(チョコレート)で丸く包んで作った砂糖菓子だ。

わたくしも大好きなのだけれど、とても高価なお菓子なので、今まで公爵家のお茶会で一度しか食べたことが無い。


そのボンボンショコラが、十二個も入っていたのだ!

叔母様もそれを見ると、我慢できない。


「忙しいけれど、ちょっとお茶にしましょう。

これが気になって、仕事に集中できないわ」


叔母様は、急いでお茶の用意をさせる。


テーブルの上の綺麗な花籠を見ながら、ボンボンショコラを食べて、優雅にお茶を飲むのは至福の時間だ。


「こんなことを言うと不謹慎だけど、リュシアン様のお見舞いを頂いて、こうして優雅にお茶を飲んでいるのもエリザのお陰ね」


ボンボンショコラを口に含むと、甘いフルーツの香りとショコラの濃厚さが口の中に広がる。

甘いお菓子を食べると、うっとりと幸せな気分になってしまう。


「本当に、ドレスを切られた悔しさが、少し薄まってしまった気がします」


「それにしても、リュシアン様はご自分の責任と思われて、これほどのお見舞いをして下さるのかしら?

それとも、やっぱりエリザがお好きなのかしら?」


「リュシアン様は、とても責任感の強い方で、クチュリエールまでわたくしを送らなかった事を後悔されているのだと思います」


「そうよね。

あれだけの美貌とお家柄のリュシアン様ですもの。

エリザは美しいけれど、もっと家柄の相応しい方はたくさんいらっしゃるわよね」


叔母様はお母様の妹だけれど、現実主義でシビアな所を見ると、全く似ていない姉妹だ。


叔母様とお茶を楽しんでいる時に、予告無く兄がやって来た。

わたくし達が、ボンボンショコラを食べているのを見つけると、遠慮なく手を出して、二個も口に入れる。


本当に、居て欲しくない時は必ず現れる兄だ。

しかも、高級なボンボンショコラは、ゆっくりと口の中で溶かして食べるのが美味しいのに、兄は噛んですぐ飲み込んでしまう。


更にもう二個を掴んだ兄を見て、叔母様は堪らずボンボンショコラを入れた器に蓋をして、下げてしまう。

叔母様の口調まで(とげ)を含んでいる。


「ヴィクトル、今日は何の用なの?」


「ちょっとマリウスの様子がおかしいので、エリザに聞きに来たのです。

マリウスは毎日こちらに寄っているらしいが、いつもと変わらぬ様子だろうか?」


「ええ、何も変わりませんよ」


マリウス様が変わったと言えば、以前のような皮肉な様子が消えて、優しくなったことだろうか。


「マリウスは毎晩、下町のいかがわしい酒場に入り浸っているんだ。

贔屓(ひいき)にしている踊り子がいるのだ、と言う噂も出ている」


まさか、あのマリウス様が、そんな酒場に行っているなんて、想像も出来ない。


「私が止めろと言っても、『放って置いてくれ』と言うばかりなんだ。

エリザからも、(いさ)めてくれないか」


冷静なマリウス様が、そんな事をするのには、きっと訳があると思う。

ただ兄は兄なりに、マリウス様を心配しているのだ。



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