ルイーズ・ボージール子爵令嬢のお茶会(その二)
わたくしは、背後から声を掛けられる。
「レトワール男爵令嬢、お兄様とマリウス様は、仲がお宜しいのですね」
振り返ると、そこにいたのはルイーズ様だった。
「えぇ、そうです。
マリウス様は、兄の乳母子なので、子供の頃から兄弟のように育ったのです」
「そうなのですってね。
宜しかったら、ちょっと庭でお話しませんか?」
わたくしは、ルイーズ様に庭に案内される。
ボージール子爵家の庭は、幾何学的に刈り込みがされている。
夏の暑い日差しを避けるように、所々に置かれたベンチに座った。
「男爵令嬢は、デュボワ夫人のクチュリエールでドレスを作っていらっしゃるのだそうですね?」
「はい、そうです」
「それで、手作りするドレスに、色々な賦与を掛けられるのですか?」
「えぇ、そうですけれど、『賦与』はささやかな力で、それを身に付ける人の特色を強めるだけなのです」
「マリウス様の髪のリボンも、お嬢様が作られたと聞きましたが」
そうだった。
強力な『女除けの賦与』を掛けた筈だったのに、ルイーズ様と散歩したりして、効果が全然無さそうだ。
やっぱりマリウス様が、本気で女性を避けていないということなのだろう。
「マリウス様は、本当に楽しそうに、お嬢様のお話をなさいますのよ」
ルイーズ様がわたくしの事情に詳しいのは、全部マリウス様から聞いた話だったのだ。
二人はそんな個人的な話をする仲になっている、ということだろうか。
「わたくしが、マリウス様にその事を指摘したら、マリウス様は珍しく赤くなられて、『妹の様にして育ったのですから』と、言い訳されたのですが、わたくしは違うと思いました」
「えっ、いえ、本当です。
わたくしもマリウス様を、本当の兄の様に思っています。
それにマリウス様は、わたくしにとても厳しい事を言うのです」
「それでは、お嬢様はリュシアン様がお好きなのでしょうか?」
ルイーズ様はお顔に似合わず、ズバッと切り込んで来る。
わたくしはタジタジだ。
「リュシアン様を嫌いなお嬢様は、どこにもいらっしゃらないと思います。
まるで天使のように美しい方ですもの」
人並み外れた美男のリュシアン様には、それ相応の美女が相応しい。
わたくしみたいな貧乏男爵令嬢では、相手として誰も納得しない。
それに、リュシアン様は秘密の想い人がいるのだ。
「では、ルイーズ様は、リュシアン様をどう思われますか?」
わたくしは反撃する。
「そうね、リュシアン様と相愛の仲になれたら、どんなにか素敵でしょうね」
わたくしは手を緩めない。
「それでは、子爵令嬢は、マリウス様の事はどうお思いですか?」
「マリウス様も、とても素敵な方で、礼儀正しいし、誠実な方だと思いますわ。
けれどね、マリウス様はわたくしではなく、お嬢様を愛しているのです」
「そんな筈は有りませんわ......」
わたくしの声は小さくなる。
家の玄関ホールで、マリウス様にギュッと抱きしめられた事を思い出す。
けれど、マリウス様は、その後はまた普通の態度に戻ったのだ。
「ほら、話していたら、向こうからマリウス様が来ましたわ。
そこまで言うなら、男爵令嬢がご自分で聞いてみたら宜しいでしょう?」
マリウス様と兄が庭の道を歩いて来る。
「あら、ヴィクトル様、ちょっとわたくしとお話しませんか?」
「えっ、私ですか?
勿論喜んで、お供いたしますよ」
兄は喜色満面で、ルイーズ様をエスコートする。
マリウス様ではなく、自分がルイーズ様に声を掛けられた事がとても誇らしいらしく、嬉しさを隠さない。
「じゃあね、マリウスはちょっとエリザの相手をしていれば良いよ」
兄は浮き浮きと、ルイーズ様と歩み去る。
「新しいドレスが出来たのだね」
マリウス様はそう言うと、ベンチの隣に腰掛ける。
「ええ、これもわたくしが作ったのです」
「どんどん腕が上がって来たようだね」
それだけ言うと、二人とも黙ってしまう。
「子爵令嬢と何を話していたの?」
しばらくしてから、マリウス様はわたくしに聞く。
「ドレスの賦与の事とか......それから......マリウス様の事を話していました」
「どんな話?」
マリウス様はちょっと焦ったように言う。
「ルイーズ様は、こう言ったのです。
マリウス様は、わたくしを愛していると」
「えっ。何を......」
「わたくしもマリウス様も、お互いを兄弟のように思っていると、わたくしはルイーズ様に言いました」
「そう、か......」
「それからルイーズ様は、わたくしがリュシアン様を好きなのか、と聞きました」
「......それで、エリザは?......」
「リュシアン様を嫌いな女性はいないと、お答えしました」
マリウス様は黙ってしまう。
リュシアン様には秘密の想い人がいるとは、マリウス様にも言えない。
「マリウス様は、ルイーズ様がお好きなのですか?」
「ルイーズ様?子爵令嬢は、連隊長のお嬢様らしく勇猛果敢な方だね。
女性にしては珍しく、思ったことをハッキリと言われるし、気性もさっぱりとして話しやすいよ」
「ルイーズ様は、とてもお綺麗ですよね」
「ああ、そうだね。乗馬もなさるそうで、スタイルも良いね」
今度は、わたくしが黙ってしまう。
向こうから、兄が、ポンコツ兄が、スキップして現れる。
「ねぇ、どう思う?
子爵令嬢は、私に気があるんじゃないか?
そうじゃなかったら、私を誘ったりしないだろうからね」
「いいえ、お兄様、それは勘違いです!」
「私が作った詩を捧げるのは......マリウス、どう思う?」
「止めた方が良いよ」
「それは、絶対ダメ!」
わたくしとマリウス様は、同時に兄を止める。
どこまでもおめでたい兄だ。




