表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
29/70

ルイーズ・ボージール子爵令嬢のお茶会(その二)

わたくしは、背後から声を掛けられる。


「レトワール男爵令嬢、お兄様とマリウス様は、仲がお宜しいのですね」


振り返ると、そこにいたのはルイーズ様だった。


「えぇ、そうです。

マリウス様は、兄の乳母子なので、子供の頃から兄弟のように育ったのです」


「そうなのですってね。

宜しかったら、ちょっと庭でお話しませんか?」


わたくしは、ルイーズ様に庭に案内される。

ボージール子爵家の庭は、幾何学的に刈り込みがされている。

夏の暑い日差しを避けるように、所々に置かれたベンチに座った。


「男爵令嬢は、デュボワ夫人のクチュリエールでドレスを作っていらっしゃるのだそうですね?」


「はい、そうです」


「それで、手作りするドレスに、色々な賦与を掛けられるのですか?」


「えぇ、そうですけれど、『賦与』はささやかな力で、それを身に付ける人の特色を強めるだけなのです」


「マリウス様の髪のリボンも、お嬢様が作られたと聞きましたが」


そうだった。

強力な『女除けの賦与』を掛けた筈だったのに、ルイーズ様と散歩したりして、効果が全然無さそうだ。

やっぱりマリウス様が、本気で女性を避けていないということなのだろう。


「マリウス様は、本当に楽しそうに、お嬢様のお話をなさいますのよ」


ルイーズ様がわたくしの事情に詳しいのは、全部マリウス様から聞いた話だったのだ。

二人はそんな個人的な話をする仲になっている、ということだろうか。


「わたくしが、マリウス様にその事を指摘したら、マリウス様は珍しく赤くなられて、『妹の様にして育ったのですから』と、言い訳されたのですが、わたくしは違うと思いました」


「えっ、いえ、本当です。

わたくしもマリウス様を、本当の兄の様に思っています。

それにマリウス様は、わたくしにとても厳しい事を言うのです」


「それでは、お嬢様はリュシアン様がお好きなのでしょうか?」


ルイーズ様はお顔に似合わず、ズバッと切り込んで来る。

わたくしはタジタジだ。


「リュシアン様を嫌いなお嬢様は、どこにもいらっしゃらないと思います。

まるで天使のように美しい方ですもの」


人並み外れた美男のリュシアン様には、それ相応の美女が相応しい。

わたくしみたいな貧乏男爵令嬢では、相手として誰も納得しない。

それに、リュシアン様は秘密の想い人がいるのだ。


「では、ルイーズ様は、リュシアン様をどう思われますか?」


わたくしは反撃する。


「そうね、リュシアン様と相愛の仲になれたら、どんなにか素敵でしょうね」


わたくしは手を緩めない。


「それでは、子爵令嬢は、マリウス様の事はどうお思いですか?」


「マリウス様も、とても素敵な方で、礼儀正しいし、誠実な方だと思いますわ。

けれどね、マリウス様はわたくしではなく、お嬢様を愛しているのです」


「そんな筈は有りませんわ......」


わたくしの声は小さくなる。

家の玄関ホールで、マリウス様にギュッと抱きしめられた事を思い出す。

けれど、マリウス様は、その後はまた普通の態度に戻ったのだ。


「ほら、話していたら、向こうからマリウス様が来ましたわ。

そこまで言うなら、男爵令嬢がご自分で聞いてみたら宜しいでしょう?」


マリウス様と兄が庭の道を歩いて来る。


「あら、ヴィクトル様、ちょっとわたくしとお話しませんか?」


「えっ、私ですか?

勿論喜んで、お供いたしますよ」


兄は喜色満面で、ルイーズ様をエスコートする。

マリウス様ではなく、自分がルイーズ様に声を掛けられた事がとても誇らしいらしく、嬉しさを隠さない。


「じゃあね、マリウスはちょっとエリザの相手をしていれば良いよ」


兄は浮き浮きと、ルイーズ様と歩み去る。


「新しいドレスが出来たのだね」


マリウス様はそう言うと、ベンチの隣に腰掛ける。


「ええ、これもわたくしが作ったのです」


「どんどん腕が上がって来たようだね」


それだけ言うと、二人とも黙ってしまう。


「子爵令嬢と何を話していたの?」


しばらくしてから、マリウス様はわたくしに聞く。


「ドレスの賦与の事とか......それから......マリウス様の事を話していました」


「どんな話?」


マリウス様はちょっと焦ったように言う。


「ルイーズ様は、こう言ったのです。

マリウス様は、わたくしを愛していると」


「えっ。何を......」


「わたくしもマリウス様も、お互いを兄弟のように思っていると、わたくしはルイーズ様に言いました」


「そう、か......」


「それからルイーズ様は、わたくしがリュシアン様を好きなのか、と聞きました」


「......それで、エリザは?......」


「リュシアン様を嫌いな女性はいないと、お答えしました」


マリウス様は黙ってしまう。

リュシアン様には秘密の想い人がいるとは、マリウス様にも言えない。


「マリウス様は、ルイーズ様がお好きなのですか?」


「ルイーズ様?子爵令嬢は、連隊長のお嬢様らしく勇猛果敢な方だね。

女性にしては珍しく、思ったことをハッキリと言われるし、気性もさっぱりとして話しやすいよ」


「ルイーズ様は、とてもお綺麗ですよね」


「ああ、そうだね。乗馬もなさるそうで、スタイルも良いね」


今度は、わたくしが黙ってしまう。


向こうから、兄が、ポンコツ兄が、スキップして現れる。


「ねぇ、どう思う?

子爵令嬢は、私に気があるんじゃないか?

そうじゃなかったら、私を誘ったりしないだろうからね」


「いいえ、お兄様、それは勘違いです!」


「私が作った詩を捧げるのは......マリウス、どう思う?」


「止めた方が良いよ」


「それは、絶対ダメ!」


わたくしとマリウス様は、同時に兄を止める。

どこまでもおめでたい兄だ。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ