ルイーズ・ボージール子爵令嬢のお茶会(その一)
わたくしは、公園で思いがけなくマリウス様とルイーズ様に会ったので、びっくりして立ち止まってしまう。
「お知り合いですか?」
リュシアン様がわたくしに尋ねる。
「はい......紹介させて頂けますか?
こちらは、わたくしの兄の友人で、騎兵連隊のマリウス・ミシュー様です。
お隣りにいらっしゃるのは、ボージール子爵令嬢でございます」
「初めまして、マリウス・ミシューです」
「リュシアン・ド・ラ・ローシュです」
リュシアン様は、マリウス様と握手をする。
「初めてお目にかかります。
ルイーズ・ボージールでございます。
父のボージール連隊長から、ローシュ候爵閣下のお噂は何度も聞いておりました」
リュシアン様はルイーズ様にも挨拶をして、手を取って指先にキスをする。
「なるほど、あの勇猛果敢な騎兵連隊長のお嬢様でしたか。
ゆっくりとお話できれば良いのですが、今は急ぎの用事がありまして、また今度お会いできれば嬉しく思います。
大変申し訳ありませんが、これで失礼します」
リュシアン様は、ルイーズ様にニッコリと笑う。
ルイーズ様も嬉しそうだ。
リュシアン様は美しいその笑顔で、一度会った人を皆虜にしてしまう。
マリウス様は、礼儀正しく挨拶をしたけれど、すっかり表情を消している。
子供の頃からマリウス様と近くで育ったわたくしは、その表情がとても機嫌の悪い時のものだと知っている。
近衛連隊と騎兵連隊の騎士達は、昔から仲が余り良くなくて、お酒が入った場面での乱闘も有ったと聞いた事がある。
それともマリウス様は、ルイーズ様がリュシアン様に会って嬉しそうなのが気に入らないのだろうか。
今日は休暇の日でもないのに、マリウス様がルイーズ様と散歩をしているのはなぜだろう。
わたくしはリュシアン様に公園の入口まで送って頂いたので、丁寧にお礼を申し上げて、小間使いと一緒にクチュリエールに帰る。
「あら、思ったよりも早く帰ってきたのね。
リュシアン様は何と言われて?」
「お作りしたスカーフは、とても満足して頂きました。
残りのスカーフは隣国からお帰りになったら、纏めてお渡しする事になりました」
「結局リュシアン様には、スカーフをお渡ししただけなの?」
「ええ、そうですけど?」
「わたくしはリュシアン様が何を考えているのか、ちっとも分からないわ」
叔母様にはリュシアン様の秘密の賦与の事を話していないので、訳が分からないだろう。
わたくしとリュシアン様の内緒の話なのだ。
あれからリュシアン様は、想い人とお会いできたのだろうか。
わたくしが掛けた賦与の効果はどうだったのだろう。
本気のリュシアン様を拒める女性がいるとは思えないので、きっとうまくいったのだろうと思う。
それから、マリウス様は、ルイーズ様とお付き合いされているようだけれど、どこまで本気なのだろうか。
わたくしが考え始めると、胸がチクチクと刺されるように感じるのはどうしてだろう。
でも、悩んであれこれ考えていても、何も解決しない。
わたくしは空いた時間があれば、自分のアフタヌーンドレスを一生懸命作る。
リュシアン様と公園を散歩した時は、未だドレスが出来上がっていなかったので、自分が持っている一番良いドレスを着たのだ。
リュシアン様が隣国からお帰りになる前に、早くドレスを作らなければならない。
そうして毎日を忙しく過ごしていると、思いがけなくルイーズ様からお茶会の招待状が来た。
わたくしは、出来上がったばかりのクリーム色のアフタヌーンドレスを着て、お揃いの帽子を被り、叔母様と一緒に出かける。
ボージール子爵家は、連隊の宿舎の敷地に隣り合っていて、先日リュシアン様と散歩した公園からも程近い場所にある。
それは角張った昔風の大きなお屋敷で、内装も余計な装飾が無くスッキリと片付いている有様は、家の主人であるボージール子爵の性格を表わしているようだ。
「良くおいで下さいました」
庭に向かって開け放されている広間に入ると、ルイーズ様が招待客を出迎える。
今日のルイーズ様は、薄い水色で、羽のように軽いシフォンのアフタヌーンドレスを着ている。
美しい金髪が雲のようにルイーズ様のお顔を縁取り、エメラルドの様な瞳が輝いている。
本当に美しいお嬢様なのだが、ドレスの色がもう少し碧色に近い方が似合う気がする。
こんな目でルイーズ様を見てしまうのは、仕事柄なのか、意地悪な気持ちなのか、わたくしにも判断が付かない。
今日は連隊の騎士の方が沢山招待されていて、おまけに若い令嬢達も多いので、あちこちで華やかな笑い声が聞こえる。
聞き慣れた声が聞こえたと思ったら、子爵令嬢のデルフィーヌ様だった。
「まぁ、それではヴィクトル様は、わたくしに詩を捧げて下さると言う訳でございますね」
兄の名前が聞こえた。
ポンコツ兄は、今度は何をしているのだろうか。
わたくしは声のする方角をそっと窺う。
兄はデルフィーヌ様に、細く丸めてリボンで結んだ紙を渡している。
わたくしは悪い予感しかしない。
デルフィーヌ様は受けとると、その場でリボンを解いて紙を広げ、黙って読みはじめる。
「ふ~ん、これを詩だと言われるなら、詩なのでしょうね。
わたくしにはわかりませんわ」
デルフィーヌ様は、ジッと見つめ続けている兄に、投げつけるように紙を返す。
そして用は済んだとばかりに、サッサと庭に向かって歩き出す。
「子爵令嬢、ちょっとお待ち下さい。
この詩の説明をさせて下さい」
兄はそう言って、デルフィーヌ様の後を追おうとする。
わたくしは、兄を止めようとした。
「ヴィクトル、ちょっとこちらに来ないか。
紹介したい人がいるのだ」
兄の腕を掴んだのは、マリウス様だった。
「いや、ちょっと私はデルフィーヌ様に......」
「良いから、ちょっとこちらに来るのだ」
マリウス様は強引に兄を連れて行く。
良かった、兄が恥の上塗りをしないで済んだ。




