アフタヌーンドレスの日々が続きます
次の日はブレヴィル公爵家に、マルグリット様のドレスの本仮縫いにお伺いする。
前回お作りした濃いワイン色のイブニングドレスは、老公爵夫人にも気に入って頂いたので、更に四枚のドレスの注文が入っている。
取り敢えず最初に、また特急料金で、お茶会用のアフタヌーンドレスを作っているのだ。
「本当にあのワイン色のドレスはとても評判が良くて、わたくしは沢山の方から褒められましたのよ。
今度のドレスも、出来上がりがとても楽しみだわ」
マルグリット様は生き生きとして話す。
声も明るくなって、表情も豊かに微笑みながら話していると、どんどん美しくなっているのがよくわかる。
「お嬢様はお顔が美しいだけではなくて、とても美しい髪をなさっていますし、お声も鈴を振ったようで、繊細な音楽を聞くようですわ」
叔母様はマルグリット様を褒めながら、新しいサーモンピンク色のアフタヌーンドレスの仮縫いを進める。
「この前の夜会では、リュシアン様にも褒めていただいたのです。
わたくしをじっとご覧になられて、(とても美しくなった)と言われたのです」
マルグリット様はお顔を上気させて、嬉しそうに言う。
まずい。
リュシアン様は、秘密の想い人がいるのだ。
でも、それを教えるわけにはいかない。
リュシアン様も罪深い方だ。
お好きな方がいらっしゃるのに、誰にも良い顔をされて優しく話されたら、皆リュシアン様の虜になってしまうのではないか。
マルグリット様は、リュシアン様と同格の公爵令嬢なのだから、一番結婚の可能性もある方なのに、気を持たせるような事を言ってはお気の毒だ。
叔母様は、マルグリット様にドレスと同じ生地で作った帽子を被せる。
アフタヌーンドレスは、戸外のお茶会や散歩にも使われるので、帽子は必須アイテムだ。
大きな鍔付きの帽子には、造花やリボンが飾られて、美しく華やかな雰囲気を醸し出している。
「素敵な帽子ね。
以前だったら、こんな華やかな帽子は被ろうとも思わなかったけれど、今はこういう美しい帽子が大好きですわ」
「お嬢様に大層良くお似合いです」
令嬢の小間使い達も、うっとりと頷く。
叔母様は、マルグリット様の帽子の、造花とリボンの位置を少し直して、今日の本仮縫いは順調に終了した。
わたくしはクチュリエールに戻ると、リュシアン様のスカーフに金糸で名前を刺繍する。
上着の衿元から、チラッと見える位置に刺繍するのだ。
『リュシアン・ド・ラ・ローシュ』と、フルネームで刺繍する。
わたくしは、刺繍の一文字一文字に、心の中で『好きな人に振り向いてもらえる』賦与を掛ける。
あんなに何もかも恵まれた美しいリュシアン様にも、叶わぬ想いがあるのだ。
お妹様のレオンティーヌ様だって、『真実の愛』を賦与するのは、レオンティーヌ様の周りには、『偽物の愛』が溢れているからだろうか。
わたくしが、ユベール様やマリウス様の言動に傷付いている事なんて、馬鹿馬鹿しい悩みだ。
エルトル伯爵家の夜会が終わった後は、お父様とお母様は領地に帰られた。
わたくしは、デビューの後でお茶会や夜会への招待も多かったし、何よりもクチュリエールの仕事が山ほどあって、叔母様もお母様に頼み込んで、わたくしは叔母様のお宅にずっと住み込み状態なのだ。
お茶会や夜会には、叔母様が介添人として付き添ってくれる。
今日の午後わたくしと叔母様は、アンリエット様のお茶会に呼ばれている。
お茶会に招待と言っても、実態はお客様ではなく、わたくし達の接待お茶会のようなものだ。
アンリエット様の自慢をお聞きして、ひたすらヨイショしないとアンリエット様の機嫌が悪くなるので、本当は行きたくないのだが、招待を断り続ける訳にもいかない。
叔母様は、お客様を細かく観察して長所を見つけて、そこを褒めているのだけれど、アンリエット様は自惚れと自慢が過ぎるので、辛いところだ。
アンリエット様は派手で目立つ色がお好きなので、今日も濃いピンク色のフリルが沢山付いたアフタヌーンドレスを着ている。
帽子も同じ色で作られているから、全身が濃いピンクの小山のようになっている。
しかも、また少し太ったのではないだろうか。
このドレスは叔母様のクチュリエールで作ったものではない。
もし叔母様だったら、いくらお客様がピンクが好きでも、もう少し違った作り方をしただろう。
「この庭は、王宮の庭を造られた造園師に依頼した庭なので、何処か王宮の庭を思わせる、と、良く言われますのよ」
庭でお茶会を開く時は、アンリエット様に必ず聞かされる自慢だ。
多分、植木の刈り込み方が似ているとか、そう言う事だろう。
「近頃は、夜会に出席するとダンスの申し込みがとても多くて、皆様とお話する時間も取れないものですから、今日はゆっくりとお話を楽しみたいと思いますわ」
アンリエット様は、自分の名前入りのリボンを、ダンスを申し込んだ方には誰でも渡している。
リボンの収集熱に浮かされた騎士などには、モテモテなのだ。
「ダンスの申し込みが多いのは、お嬢様の魅力が溢れていらっしゃるからでしょうね」
招待客の一人が言う。
この方は、ご自分の息子を何とかアンリエット様と結婚させたいと必死だと、噂になっている。
事業の経営が上手く行っていないらしい。
「まぁ、おほほ、一人の方とばかり踊る訳にもいきませんし、選ぶのも大変なのですよ」
「今日のドレスも、何と良くお似合いですこと。
まるで美しい花のようですわ」
「リュシアン様にも、わたくしの名前入りのリボンが欲しいと言われて、差し上げましたのよ」
アンリエット様の妄想が暴走しはじめる。
わたくしと叔母様は早々に帰ってきた。




