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マルグリット様のワイン色のドレス

叔母様はクチュリエールに戻ると、わたくしを助手にして、早速マルグリット様の型紙作りを始める。

何しろこのドレスは、三割増しの特急料金だからだ。


ドレスの料金は、着手金として半額を最初に払ってもらい、出来上がって納品したら残り半分を貰う契約になっている。


着手金が必要なのは、レースやドレスの生地はどれも非常に高価で、仕入れに大金がかかるからなのだ。

そしてもし万が一、ドレスが契約通りに出来上がらなかった場合は、着手金の倍返しをしなければならない。


逆にドレスを作り始めてからのキャンセルも着手金の倍のペナルティがあるので、ドレスを作るという事は依頼する側にも慎重さが求められるのだ。


叔母様は、先を見越してお針子を増やしたので、あっという間にマルグリット様の麻布の型紙が出来、麻布の仮縫いを経て、本仮縫いまで順調に進んだ。


わたくしは、叔母様と一緒に毎回ブレヴィル公爵家にお伺いしているので、マルグリット様がどんどんと明るく変わって行かれるのが、手に取るように分かる。

マルグリット様も、わたくし達に親しみを見せて、内緒話もするようになってきた。


今日はいよいよドレスが出来上がって、納品の日だ。

マルグリット様は期待に頬を染めて、わたくし達を迎える。


「わたくしは、あまりにも嬉しかったものですから、ゆうべは良く眠れなかった程なのです」


叔母様は衣裳箱からドレスを取り出して、マルグリット様にお見せする。

濃いワイン色のドレスは、最新流行のモアレ柄で、光の加減で複雑な模様を浮き出す。


叔母様は今、リボンを流行にしようとしているので、オーバースカートの両脇二カ所を吊り上げて、そこにリボンを付けている。


そしてマルグリット様の貧弱な腰をカバーするためにも、後ろ腰に大きなリボンを付けたのだ。

吊り上げたオーバースカートの下から見えるように、高価な幅広のレースもたっぷりと使っている。


「まあ、本当に素敵なドレス!

思った以上の仕上がりよ......とても気に入ったわ!」


叔母様は早速マルグリット様にドレスをお着せする。

コルセットには小さいパッドを入れて、胸のボリュームを出す。


胸元はオーガンジーで半分ほど覆われているので、胸が露出している印象は少ない。

ただし、近くで胸元を見ると、息をする度に胸が上下に動くのが薄布越しに見えて、逆になまめかしい。


遠くで見る方には分からなくても、間近で話したり、ダンスで踊る相手に対しては、かなりのアピールポイントになるに違いない。


マルグリット様は、人が変わったように、嬉しそうに鏡を見る。


「自分に似合うドレスを着ることが、こんなにも楽しいことだとは思いませんでしたわ。

それに、このドレスには『快活』の賦与が付けられているのですよね」


「賦与は、その方の特色を引き出して強めるものですから、お嬢様には元々快活さがおありになったのでございましょう」


「これでわたくしも、リュシアン様と自信を持って話せますわ。

リュシアン様はどなたにも優しく接して、いつも丁寧な態度を変えられませんが、わたくしはわたくしだけを思ってくれる方と結婚したいのです」


確かにリュシアン様はどなたにも優しく話されるけれど、結婚相手としたら、自分だけを見て欲しいと思ってしまうだろう。

余りにも完璧な美男子と結婚するというのも、楽しい事ばかりではないのかもしれない。

わたくしには全然関係の無い話だけれど。


マルグリット様は、お祖母様にもドレスをお見せする。


「後ろ姿はどうなっているの?」


マルグリット様がその場でクルッとターンすると、ドレスがふわりと広がる。


「おや、まぁ、それほど悪くはありませんね。

今のドレスにしては、胸元も大きくは開いていないようですし」


「ええ、本当にわたくしは、このようなドレスが着たかったのでございます」


「お嬢様は背も高くていらっしゃるので、こういうドレスが大層お似合いになります。

本当にお美しいお嬢様でございますね」


叔母様も口を添えるけれど、それがお世辞とは聞こえないほどにドレスが似合っていて、マルグリット様は美しかった。


「マルグリットが着るドレスは、まず上品でなければなりません。

それでは同じようなドレスを、あと二着と、お茶会に着るドレスを二着、お願いすることにしましょう」


「まぁ、お祖母様、新しいスタイルのドレスを、また作っても宜しいのですね!

本当に嬉しいわ!許して頂いて、ありがとうございます」


「そんなに手放しで、淑女が喜ぶものではありませんよ。

公爵令嬢としての品位が大事ですからね」


さすがは公爵家だけあって、ドレスの注文も桁外れだ。

普通のお宅なら、一年で一枚の新しいドレスを作るだけでも大変なのに。


しかも、叔母様が特急料金を加算した三割増しの代金を請求したところ、公爵家の執事がドレスの料金の安さに驚いたそうだ。


最高級の金襴地や金モール等を使ったからかもしれないが、どうも以前ドレスを作っていた仕立て屋の料金が、異常に高かったらしい。


ドレスの納品の時に次のドレスの注文を貰うこともあるので、叔母様は新しい生地を何枚か用意して来ていた。

それらの生地をお見せして、次に作るドレスを決めて行く。


ドレスに付随して、新しいパニエやコルセットの注文も入って、叔母様は益々お忙しくなりそうだ。



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