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公爵家の夜会(その三)

叔母様の元に戻ると、叔母様はデルフィーヌ様のお母様の子爵夫人とお話をしている。


「デルフィーヌ様は、殿方にとても人気がおありですもの」


「奥様にもそう見えますかしら。

デルフィーヌは、わたくしに似て本当に良かったと思っておりますのよ。

こういう夜会では、人気の有り無しが残酷に分かってしまいますでしょう?

わたくしの娘は、次々にダンスを申し込まれるのですから、壁の花になどなりようもないですわ」


わたくしは、踊っているデルフィーヌ様のドレスを確認する。

大きな胸が精一杯目立つように作ったので、太ったウエストはあまり目立たないようで良かった。


薄いピンク色のドレスは見た目のボリュームが出がちで、太っている方にはあまり奨められないのだが、デルフィーヌ様のお好きな色なのでどうしようもないのだ。


その時、わたくしの目は、デルフィーヌ様の近くで踊っているリュシアン様に吸い寄せられた。

微笑みを浮かべ、大広間の中をゆっくりと見回しながら踊っているリュシアン様は、なんて美しいのだろう。


お相手の方を見ると、流行遅れの、しかし如何にも高価な生地を使ったドレスを着た、背が高く痩せている令嬢だった。

リュシアン様には似つかわしくない事を自分でも知っているのか、投げやりな、諦めきった冷たい目をしている。


「ほら、今リュシアン様と踊られているブレヴィル公爵令嬢は、いずれリュシアン様とご結婚なさるのでしょうけれど、あのご容姿ではリュシアン様がお気の毒ですわ」


叔母様はこういう話には決して相槌を打たない。


「わたくしのデルフィーヌだったら、もっとリュシアン様に愛して頂けると思うのですけれど」


それはない、と、わたくしは心の中で断言する。

もし、リュシアン様がデルフィーヌ様を選ぶのなら、リュシアン様は女性を見る目がないのだ。


それにしても、リュシアン様と踊る方は、多くの人から注目されて、あれこれとシビアに評価されるようだ。


わたくしが一度だけ、リュシアン様のエスコートで街を歩いた時の女性の視線を思い出す。

その女性は、刺すようにわたくしを見てきて、値踏みしたのだ。

そして、その目は(不合格、自分の方がまし)と言っていた。


子爵夫人の前を辞して、叔母様は次の顧客の所に移動する。

叔母様の営業活動は今日も忙しい。


「ご挨拶は良いから、エリザは踊っていらっしゃい。

このドレスの評判はとても良くて、リボンを使うデザインのドレスの注文が入りそうだわ」


叔母様がわたくしにダンスを奨めるのは、クチュリエールの宣伝もしっかりと兼ねているようだ。

このドレスは、わたくしのデザインの希望も入ったドレスなので、評判が良いのはとても嬉しい。


叔母様の移動に付いて歩いていると、わたくしはレオンティーヌ様を見つけた。

傍には最初にダンスを踊った男性がいるが、他にも沢山の殿方や令嬢達に囲まれている。


肝心のドレスが良く見えないので、わたくしはぐるっと迂回してレオンティーヌ様の後ろから近付く。

レオンティーヌ様のドレスは、上着とオーバースカートが総レースになっている超豪華版だ。


わたくしはこんな贅沢なドレスは一度も見たことが無かったので、是非近くで見てみたいのだ。

大広間の暑い人いきれを逃し、涼しい夜の空気を取り込むために、庭への扉が開けられている。


わたくしはその扉の側まで行って、レオンティーヌ様の後ろ姿を見ていた。

その時、わたくしの後ろからそっと声が掛けられた。


「男爵令嬢、ようやく見つけましたよ」


驚いて後ろを振り向くと、リュシアン様がニッコリと微笑んで立っている。


「今日はお招き頂き、有難うございます。

わたくしの叔母も近くにいるはずなのですが......」


「デュボア夫人には、もうご挨拶頂きました」


流石は叔母様、仕事が速い。

リュシアン様はわたくしの方に手を差し出して言う。


「それよりも、私と一曲踊ってくだ」


レオンティーヌ様が振り返って、リュシアン様の言葉を遮る。


「あら、お兄様、そこにいらしゃったのね。

ちょっと聞いてくださいな。

カラーギナ様がこう仰るのよ」


リュシアン様は、謝るようにわたくしにちょっと頭を下げてから、レオンティーヌ様に歩み寄る。

カラーギナ様と言うのは、今夜の主賓の御子息だと思うので、当然その方を優先させるべきだ。


わたくしは、目立たないようにその場から離れる。

リュシアン様は、儀礼上わたくしをダンスに誘って下さったようだけれど、もしダンスをお受けしてしまったら、どのような事態が起きるのか、考えただけで恐ろしい。


わたくしに刺さる令嬢達の視線は非常に厳しいだろうし、リュシアン様に好意を持っていてダンスを申し込まれなかったお嬢様は、叔母様のクチュリエールとの取引を止めると言い出すかもしれない。


そうなって、新しいドレスを作れなくなったら、後悔してもしきれない。

リュシアン様と一度ダンスを踊るために、ドレス作りを諦めるわけにはいかない。


もうすぐ結婚するだろうと言われている公爵令嬢でさえ、リュシアン様とダンスする姿が似合わない、と噂されるのだ。

わたくしのような貧乏男爵の娘では、何を言われるかわからない。


叔母様を探して大広間の中を歩いていると、わたくしは呼び止められる。


「ちょっと、お聞きしたい事があるのですが、宜しいかしら?」


さっきリュシアン様と踊っていた、公爵令嬢だった。


「そのドレスはどこでお作りになったのかしら?

わたくしは、そのようなドレスがとても好きなのですけれど」


これは叔母様の出番だった。


「これはわたくしの叔母のクチュリエールで作ったドレスでございます。

丁度叔母もこの夜会に出ておりますので、探して参ります」


「そう、それではお願いしますね。

わたくしは隣のサロンに、お祖母様とおりますから」


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