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公爵家の夜会(その二)

大広間の中には、既に多くの人が集まっている。

この国の、上流貴族のほとんどが招かれているようだ。


叔母様は大広間の中を歩き回って、クチュリエールの顧客のお嬢様方や、奥様方を見つけては挨拶をして行く。

わたくしも叔母様の後ろを付いて歩くけれど、最初のご挨拶ぐらいで、後の会話は叔母様任せだ。


わたくしは会話よりも、招待客のドレスが気になって仕方がない。

中には、何とも時代遅れなデザインのドレスを着込んでいる老婦人もいるのだが、それにしてもドレスは高価な金襴の生地で、古めかしく見える装飾も素材は素晴らしいものだ。


広間の中ではいくつかのグループが出来ており、近衛連隊の制服を着た騎士の方々とか、髭を生やし、恰幅のよい殿様方、また若い令嬢の集まっている場所もある。


中でも一際華やかな一団は、壁際に置かれた長椅子を囲んで集まっている令嬢達だ。


中心に座っている令嬢は、最新流行のドレスを身に纏い、異国風な絹の扇を優雅に揺らしている。

輝く金髪を複雑に結い上げ、耳の脇に巻き毛のロールを何本も垂らしている、まるで名画のように美しい令嬢だ。


まばゆいばかりの美貌の令嬢は、リュシアン様に雰囲気がよく似ているので、お妹様のレオンティーヌ様かもしれない。


令嬢達の端の方に、わたくしはデルフィーヌ様の姿を見つけた。

デルフィーヌ様は、レオンティーヌ様と修道院でのお知り合いと誇らしげに言われていたので、中央に座っている天使のような美女は、やはりレオンティーヌ様に違いない。


そして、その令嬢達の一団を取り囲むように、若い貴族や騎士達が沢山立って、何とか会話の端を捉えようとしている。


そこへリュシアン様が、急ぎ足で現れた。

令嬢達の視線が、一斉にリュシアン様に注がれる。

急に花が咲いたように笑みが溢れ、楽しげな囁きが洩れる。


「ちょっと失礼、レオンティーヌ、君を紹介したい方がいらしたから、ちょっとこちらに来てもらえないかな」


「あら、良くってよ、どなたかしら」


レオンティーヌ様はサッと立ち上がると、リュシアン様にエスコートされ、大広間の入口の方向に立ち去る。

二人がその場から居なくなると、あからさまに令嬢達は満面の笑みを消してしまう。


これをチャンスと捉えたのか、騎士の何人かが令嬢達に話しかけ、グループから連れ出すことに成功する。

何と、デルフィーヌ様にも騎士が話しかけ、デルフィーヌ様の手を取っている。


その騎士様の視線が、デルフィーヌ様の胸に釘付けになっているのだが、やはり叔母様の言う通りに、豊満な胸は男性に多大なる効果を及ぼしている。


しかもドレスとリボンに賦与が掛けられているから、胸の魅力が更に増しているはずだ。


大広間の一角を占めていた楽師達が、舞踏曲を奏で始める。

叔母様に聞くと、今夜の主賓は、隣国の宰相とその御子息らしい。


黒髪で黒い髭を生やし、異国風の立派な宮廷服を着た男性が、レオンティーヌ様と手を取り合って大広間の中央に進んで来る。


二人が踊り始めると、続いて何人もの人が踊りの輪の中に入る。

わたくしは目をしっかりと見開いて、ドレスがクルクルと回るのを見る。


実際のドレスをこの目で見るのは、ドレスのデザインブック以上に、とても参考になる。

叔母様が、中年の招待客の夫人と話しているのに背を向けて、ワクワクとドレスばかりを見ていた。


その時、近衛連隊の制服を着た見知らぬ騎士が、わたくしに近寄ってきた。


「近衛連隊のユベール・デ・キュルトと申します。

お嬢様、宜しければ踊っていただけますか?」


え?わたくしにダンスの申込みでしょうか?

叔母様が素早くこちらを向いて、言う。


「わたくしは叔母のガブリエール・デュボアでございます。

こちらはエリザベト・ド・レトワール男爵令嬢でございます」


わたくしは、ユベール様にお辞儀をする。

ユベール様はわたくしの手を取って、指先に儀礼的なキスをする。


叔母様はそっと囁きながら、わたくしの背中を押す。


「エリザ、踊っていらっしゃい。折角のデビューの日だから、楽しむのよ」


この国の舞踏会でダンスを申し込まれたら、よほど疲れた時でもなければ拒否できないそうだ。

わたくしはダンスを踊るよりも、他の人のドレスが見たいのだけれど。


「お嬢様は、今日がデビューの夜会なのでしょうか?」


やはり近衛連隊の騎士は、立派な体格で、容姿端麗の方が揃っているようだ。

ユベール様も、リュシアン様ほどではないが、美男の騎士だ。


「はい、そうなのです。初めてこのような盛大な夜会に出たものですから、すっかり気後れしておりましたの」


わたくしは貴族としての体面にこだわるお母様のおかげで、子供のころからダンス教師のレッスンを受けていたので、ダンスは普通に踊る事ができる。


兄やマリウス様と組んでダンスのレッスンを何度もしたものだったけれど、兄はダンスが不得意で、何とか逃げ出したがっていた。


マリウス様は普通以上にダンスがお上手で、マリウス様のリードがあると、わたくしもダンスが上達したように感じられたものだった。


「気後れしていた、ですか?

いや、男爵令嬢の瞳は、ドレスの色と同じようにキラキラと輝いていて、遠くからでも夜会を楽しまれている様子が見えましたよ」


他のお嬢様のドレスを食い入るように見ていたのが、すっかりバレていたようだ。

気をつけなければ。


「今日デビューしたばかりのお嬢様に、最初に踊って頂けるなんて、私はなんて運が良いのでしょう。

お嬢様は本当に初々しくてお美しい」


えぇと、わたくしは褒め言葉に慣れていないのですね。

ここまで褒められると、お世辞だろうと疑ってしまうのは、今までの兄とマリウス様の言動のせいでしょうか。


「後で、もう一度踊って下さいますか?

今度、家でも夜会がありますが、招待状をお送りしても宜しいでしょうか?」


ユベール様はジッとわたくしを見て言う。

わたくしは戸惑って、曖昧(あいまい)に頷いてしまう。


一曲踊り終わって、わたくしが叔母様の元に戻ろうとすると、また別の騎士にダンスを申し込まれる。


そのまま三人の騎士と踊って、叔母様の元に戻る。

近衛連隊の制服は、リュシアン様の上着をしっかりと確認してあるので、もうよくわかっている。

できれば、別の生地を確かめたいのだ。


それに、踊っている間は他の令嬢が着ているドレスを見ることが出来ない。

できれば、レオンティーヌ様のドレスを見たいのだけれど、近くに行ってじっくりと見られないだろうか。


レオンティーヌ様は沢山の方からダンスを申し込まれて、休む間もないくらい踊り続けていらっしゃった。


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