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公爵家の夜会(その一)

毎日大忙しで、あっという間の一ヶ月が過ぎ、わたくしのドレスは美しく出来上がった。

首に巻くチョーカーも、ドレスに使ったリボンとレースで作った。


そして、濃い藍色のリボンに薄い藍色で『エリザベト』と名前の刺繍を入れたリボンも何本か作り、シルクで作られた造花と合わせて髪飾りにしたり、手首に巻いてブレスレットにしたりする。


叔母様は刺繍の入ったリボンの流行を、どんどん押し進めているのだ。

わたくしは、叔母様のクチュリエールの広告塔の役割も果たしてしまうらしい。


そして遂に、公爵家の夜会の日になった。

わたくしは朝から叔母様のクチュリエールで、夜会に出席する準備を始める。


お母様の侍女のロザリは、髪を今風にセットできないし、着付けも大変なので、わたくしの髪とドレスの準備は全て叔母様のクチュリエールでお願いしている。


用意ができたら叔母様と馬車に乗って、一度わたくしの家に寄ってから、公爵様のお屋敷に向かうのだ。

お母様もお父様も、わたくしのデビューのドレス姿を見たいというし、丁度連隊の休暇が始まったので、兄も家に戻っているそうだ。


わたくしは、マリウス様に髪のリボンを差し上げて以来、ずっとマリウス様にお会いしていなかった。

マリウス様はいつも連隊の休暇になると、兄と一緒に家に戻って来ていたので、きっとマリウス様もいらっしゃるに違いない。


あの時はハグされて動揺してしまったけれど、それから時間が経ってみると、わたくしの思い過ごしとしか感じられなくなっている。


「まぁ、エリザ、なんて美しいのかしら。

わたくしの若い頃にそっくりだわ。

わたくしにも、こんな時代があったのだけれど」


わたくしの家の居間に入ると、お母様はわたくしを抱きしめて涙ぐむ。


「こうしてデビューのドレスを着ると、すっかり大人びて見えるね。

私の小さなエリザは、いつの間にかこんなにも大きくなって」


お父様もわたくしをハグし、額にキスして感慨に耽る。


「エリザもちゃんとしたドレスを着て、澄ましてさえいれば、まあまあ見られると言う所だね」


兄は相変わらず口が悪い。

マリウス様も近付いて来る。


「エリザ、ドレスがとても良く似合っているよ。自分でも少し作ったのだろう?」


「ええ、わたくしは、ここの刺繍をしたり、ドレスの縫い合わせもしたのです」


「手首にもリボンを付けているんだね」


叔母様が得意そうに言う。


「マリウス様に髪のリボンを作って以来、刺繍入りのリボンがそれは流行っているのですよ。お嬢様達も髪や手首にまで付けるようになって」


ふと見ると、マリウス様はわたくしが作ったリボンをしている。

今日のわたくしのドレスと、お揃いになっている事に気付いているだろうか。


「連隊でも、こういう髪のリボンをしている騎士がだいぶ増えました。私がこのリボンをしていると、周りに騎士が集まってきて、しげしげと見るのです」


あのリボンは強力な『女除け』の賦与を掛けたのだけれど、逆に男性を引き寄せてしまったらしい。


「リボンもそうだけれど、ドレスの刺繍も上手に出来ているね。とても美しいよ」


マリウス様が褒めてくれたのは、刺繍だろうか、それともわたくしだろうか。

きっとドレスの出来を褒めたのに違いない。


マリウス様は、以前と全く同じようにわたくしに接する。

ドキドキしたわたくしが馬鹿みたいだった。


「さぁ、そろそろ出掛けましょう。

あまり遅くなるのは、リュシアン様に失礼に当たるわ」


叔母様に促されて、馬車に乗り込む。

公爵家は、貴族街でも王宮に一番近い場所で、この家からはだいぶ距離があるのだ。


豪華な飾り付けの馬車が何台も、公爵家の立派な門を入っていく。

叔母様の実用的な馬車では、門を入るのが気後れするくらいだ。


馬車が広い車寄せで止まると、公爵家の従僕が扉を開けて馬車から下ろしてくれる。

招待状を玄関ホールの入口にいる従僕に渡すと、招待客の名前が次々と読み上げられる。


「エリザベト・ド・レトワール男爵令嬢、並びにマダム・ガブリエール・デュボア様」


公爵家の大ホールの入口近くでは、公爵家の方々が並んで、招待されたお客様とご挨拶を交わしている。

身分や親しさの違いで、挨拶が簡単なお辞儀や握手で終わる方と、ちょっとお話される方がいる。


叔母様とわたくしは、公爵様や公爵夫人とは初対面だから、お辞儀カーテシーをするだけだ。

公爵様は義務的に頷く。

公爵夫人は「ようこそおいで下さいました」と、笑顔を顔に貼付けて、誰に対しても同じ言葉を言っている。


そのままリュシアン様の前に進む。

わたくしは、公爵家の夜会の招待客の多さにびっくりしていた。


こんな沢山の人が招かれているなら、一ヶ月以上前に一度、それも短い時間に会っただけの叔母様やわたくしの顔を、リュシアン様は覚えていないだろう。


「おや、(ようや)く、またお会いできましたね」


リュシアン様は、天使のような微笑みを浮かべて言う。

誰にでも言う儀礼的な挨拶なのだろうか。


次から次へと人が押し寄せて来ているので、叔母様とわたくしはそれ以上の会話も出来ずに、人波に押されて大ホールの中へと進んだ。




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