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序 「生徒会」

 初めまして(?)。初めましての方は前作「新たなる神話の相互干渉」へお戻りいただけると幸いです。

 異世界への切り札として、万能の人工知能を求める自衛隊の朝本覚治、そして、生き延びて再びルイラ・アモリとの再会のため動き出した亜森数真。そんな二人の見守る中で、中学生二人が主役へと浮上する「新たなる科学の相互干渉」を、よろしくお願いします!

                    ―*―

2045年4月14日(金)

 「ねえ、何読んでるの?」

 鈴の鳴るようなきれいな声が、いきなり耳元に聞こえてきた。

 …妹か?

 あれ?おかしいな。妹はこの学校の生徒じゃない...

 「…えっと、うーん、応えてくれないのかな?」

 …あ、違うな。この声、妹じゃない。

 「…何…って松良まつらさん!?」

 「あ、やっとレスポンスしてくれた。」

 とりあえず、状況を理解しようと努める。

 …クラス中からの視線。

 「あ、あの、松良さん、何か…」

 「えーっと、何、読んでるのかなって。今時、電子じゃないなんて珍しいしさ。」

 あーっ…

 俺は、かなりの気まずさ気恥ずかしさを覚えながら、手に持っていたカバー付きの文庫本を渡した。

 「ちょっと借りるね。お願い。」

 頭をちょっと下げてから、ニコッとほほえみを返してきた。

 藍色がかって、宝石―それも最高級のブラックダイヤーのようにきれいな黒髪が、さらさらと乱れることなく揺れている。

 …いったい、何が、何を、何で…

 考えるのはやめよう。どうにもならない。

 

                    ―*―

 -願いむなしくー

 「木戸君、もう一冊、あったりする?」

 !?

 前の休み時間に話しかけてきた同級生の女子は、さっき俺から借りていったライトノベルを右手、授業中を含め離しているのを見たことがないタブレット端末を左手に、あろうことかもう一冊要求してきた。

 「も、もう読み終わったの?」

 信じがたい。不真面目で授業中に読んでいたというのでも読み終わるのは困難だろうに、松良さんは学校一の才女、生徒会長。ということは休み時間だけー10分強ーで読み終わったことになる。ほとんど物理的にあり得ない。

 …そうか、読み飛ばしたな。

 「うん、えーっと、ヒロインが主人公をかばうラストスパートとか、感動したよ。」

 !?!

 読んでる!?という驚きと、松良さんがぐいっと迫ってきたことで集まった視線の粘っこさへのおののきで、俺の時間が止まった。

 「それで、ちょっと頼みがあるんだけど…」

 ーうん、きっとろくなことにはならない。何か、例えばそう、「私の部活に入って」とか、もっと直截に「私と付き合って」なんていうのがフィクショナブルな頼みなんだろうけど、そんなことを考えるからオタクというモノは世間で困った子扱いなのだ。

 きっと呼び出しとか、あるいは今はみんなの前だけど二人になってから、「あんな軽薄な本を学校に持ってくるなんて!」とか説教しようとか、そういうことなんだろう。

 …今のうちに、カバンの中の一冊は退避させた方がいいかもしれな…

 「あ、これ、借りてもいい?」

 …ってカバンの中探られてたし!

 「あ、ああ、まあ…」

 「それで…うーん、放課後、生徒会室に来てくれる?」

 …ダメだな。こんなかわいくちゃ断れないじゃないか。

 

                    ―*―

 松良あかね。

 我らが日生楽ひなせら中学生徒会長にして、筆記試験全科満点を誇り続ける才女。噂ではどこぞの企業とつながりがあるとか、いくつかの重要な論文は名義を貸して彼女が書いているとか。

 髪は黒の超ストレート、しかしかすかに金属のような青みがかかっている。拾い集めて手首に巻いて仲間の証にしている「ファンクラブ過激派」なる連中がいるらしい。

 中学生徒会長を2選し、エスカレーター進学の日生楽高校生徒会からすでに次期会長として(!)声がかかっている。そういう人。

 こうやって字面でスペックを追うと、やり手の大手企業キャリアウーマンか敏腕女性弁護士みたいな人を想像してしまう。実際、全校集会で壇上で背筋を伸ばした時、10センチは長身のはずの校長が小さく見えた。

 -だから、同じクラスになって1週間は、何度も目をこすった。

 「かっこいい」じゃない、「かわいい」のだ、松良あかねという同級生は。いや、失礼な話だけど。

 口癖は、というか数割の発言の前振りは「うん、えーっと」。問題の解き方を聞かれると、誰かからメガネを借りようとする…要するに、微妙に子供っぽいのである。それだけに、「ギャップに萌える」とか、「オンオフスイッチを見つけて押してやりたい」とかアホ発言をする奴が後を絶たない。

 その、奇跡のような美少女松良あかねが、こともあろうに冴えないオタクに過ぎない俺に話しかけ、本を借り、あまつさえ生徒会室に呼び出そうとは、何事なのだろうか。

 まあ、退屈払いにはなりそうだ、そんな、特に負うものもない帰宅部生ならではの考えで、俺は生徒会室を訪れた。

 「…あれ?君は?」

 そしていきなり、にらまれた。

 コンタクトでよかろうに、わざわざメガネをかけた男子生徒が、メガネをくいっと持ち上げながら、眼光で刺すかのように睨んでくる。うう…

 「生徒会室は原則部外者立ち入り禁止だ。そもそもノックもしないなどと…」

 と、俺の全身を眺め小言のようなことを言ったかと思うと、突然、土下座されたー

 ー上靴の名札の学年カラーを見て。

 「せ、先輩でしたか、すみませんっ!」

 …えー。

 「あの、要件は…」

 「松良会長に呼ばれて来たんだけど…」

 「そ、そうですか…

 あ、生徒会副会長のはる正良まさよしです。その、さきほどはすみませんでした。」

 名前を聞いて、やっと思い出した。生徒会便りで「ヘンな苗字」と思った副会長か。そう言えば、規律、長幼の順がどうのこうのって抱負に書いてたな。

 「いや、そんな、誰も気にしてないし、別に…」

 「誰が気にしなくても規律は乱れるんです!そういうところから風紀が」

 ガタンと扉が開き、水琴窟のような一言。

 「あれ?あ、そう言えばはっちゃんって木戸君と仲悪そうだよね。」

 …はっちゃん…

 「ちょっと会長、その呼び名はやめてくださいと何度お願いしたら…」

 …この副会長、頭の固いうっとうしい人かと思ったが、しかし、なんか、かわいそうな人かもしれん…

 「ごめんね木戸君、ちょっと30分そこで待ってて。」

 「あ、はい…」

 タブレット端末を高速でこすりながら、松良会長は仕事らしきことを始めた。

 庶務は休みなのか、全副会長と二人、時々少し会話を交わしながら、1年遠泳の協力者募集だとか本年度予算だとか、そんな会話を交わしている。

 俺は椅子を一個借りて隅で観察しながら読書することにした。

 「…そう言えば、会計とかって、どうしていないんだ?」

 ついつい、以前から気になっていたことを、聞いてしまった。

 「いらないんですよ。会長、計算はやたら強くて。暗算でも普通にコンピューター超えるんで、会計の仕事なんて数秒で終わっちゃうんです。」

 「もう、はっちゃん、私だって入力時間くらいは必要だよ?」

 「だからはっちゃんはやめてくださいと何度言えば…」

 …じゃれあうような会話ーどうも副会長が松良会長に弟扱いされているらしいーをしながらも、松良会長の作業のペースが落ちていない。いったいどうなってる...

 これなら文庫本一冊10分強で読了できてもおかしくない。全くあきれた超人だ。

 「…さて、終わったね。はっちゃん、帰っていいよ。」

 「…もう何も言いません。不純異性交遊だけはくれぐれもやめてくださいよ。」

 「あれ?はっちゃん意外とムッツリ?」

 「そう思うならどうして僕を副会長にしたんですか。

 …はあ。僕はもう帰ります。」


                    ―*―

 「それで、松良会長」

 「松良さんでいいよ。普通に話して?」

 「わかった。松良さん、何?」

 「うん、えーっと…

 …木戸君のこと、ずっと見てたの。」

 …はい?

 「同じクラスになってから、ずっと見てた。気づいてないみたいだったけどね。」

 …それってまさか…

 いや、無いな。ないない。

 「木戸君って、多趣味?」

 「いや、一応はそうだけど…」

 自慢じゃないけど、趣味の多さは人一倍の自信がある。あんまり女子に自慢するような趣味はないが。

 「…なぜに気付いた?」

 「うーんそれは教えない。

 でね、私、あなたのこと、あなたが興味あること、もっと知りたいんだ。」

 「…それはどういう?」

 内心ドキドキしながら尋ねると、松良さんは小首をかしげた。

 「…うーん、これ、自分で言うことじゃないんだけど、私って何でも知ってるじゃない?」

 「それは、松良さんだし…」

 学校で習うようなことは、他の追随を許さないだろう。聞きかじっただけでも、容易に判定できた。

 「でも、この本のこと、この本からの感動は、知らなかった。」

 「…え?」

 松良さんは、俺にライトノベルを返しながら、言った。

 「木戸君、プラモデル造ってるの?」

 「…まあ、うん。」

 「木戸君、虫取りするの?」

 「う、うん。」

 ス、ストーカー!?

 「木戸君、この前キャンプ行ったのいつ?」

 「…先週の土日」

 「木戸君、日生楽一の名所は?」

 「それはもちろん日生楽ジャンクション…あ。」 

 …さすがにドン引きか?

 「うん、やっぱり。合格だね。」  

 …何が?

 「あのさ、私はいろいろ知ってるつもりだけど、でも、知らないこともいっぱいあるの。」

 そらそうだ。

 「でもね。私は、私が知らないこと、すべてを知りたいの。だからー

 -私と一緒に、『部活』を、作ってくれない?

 それで、いろいろ、教えて欲しいんだ。私の知らない、世界を。」

 

                    ―*―

 「…部活、ですか?」

 「うん。こういう時のために前年度で部活の成立要件は緩めた。2人でも生徒会長が有用だって認めたら部活になれるんだよ。」

 それは半ば特権乱用だ…

 「だから、私と一緒に、さ?」

 -でも、どうしてだろうな。

 -乗りかかってもいないのに、船長に身を預けようとしているのは。

 「…付き合って、くれるんだね?」

 「ああ。」

 -俺の現実リアルが、始まった気がしたー 

この作品も書き溜めが完了しているのでエタらない予定です。また来週~

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