えっ! 続いてるの?
2ヵ月連増刊行記念小説 第2弾です。
本編とは一切関係ありません。
前を歩いていたシエルが急に立ち止まり、周りを見回す。
「シエル、どうした?」
お父さんの質問に首を傾げるシエル。
そのいつもと少し違う様子に、お父さんが剣の持ち手を握る。
「にゃうん?」
シエルはしきりに周りを見て不思議そうな声を出す。
もしかして迷子にでもなったのだろうか?
今まで一度もそんな事は無かったけれど。
「大丈夫? 場所が分からないの?」
「にゃうん」
シエルの返答にお父さんが驚いた表情をする。
ここは森の奥にある洞窟。
シエルがいつも通り見つけて入ったのだが、どうやら普通の洞窟では無かったようだ。
「今までにもこんな事が?」
お父さんが私に聞くので、首を横に振る。
今までシエルとは何度も洞窟に入ったけれど、こんな事は無かった。
「とりあえず、この洞窟を出ようか」
お父さんの言葉にシエルも私も頷く。
「ぷ~」
「てりゅ~」
ソラたちを見ると、きょろきょろと不安そうに周りを見ている。
2匹の頭をそっと撫でて、落ち着かせる。
私がしっかりとしないとな。
「大丈夫だよ」
シエルが先頭を歩き、来た道を引き返す。
「あれ? ここは右に曲がったから、帰りは左のはずなんだが……」
確かにお父さんの言う通り、行きに右に曲がった記憶がある。
だから帰りは左に曲がるはずなのに……。
目の前の曲がり角は、右に曲がっている。
「どうしよう、お父さん」
「ここにずっといても仕方ないし、右に曲がってみるか。シエルもいいか?」
「にゃうん」
シエルの声がいつもより硬い。
きっと警戒しているのだろう。
小さく息を吐いて周りの気配を探る。
あれ? おかしいな。
この洞窟に生き物の気配がまったく無い。
さっきまで、多数の気配があったのに。
「アイビー、気配の方はどうだ?」
「この洞窟、生き物が急に居なくなったみたい」
私の言葉にお父さんがちらりと私を見る。
その表情は少し戸惑っている。
「えっと、それはどういう意味かな?」
「さっきまであった生き物の気配が、今は何処にもないの。まるで消えたみたいに」
「消えた? そうか、そばを離れないようにな」
「うん」
「にゃうん」
そっとお父さんに近付く。
シエルも、いつもより傍にいる。
ソラとフレムは、既にバッグの中に避難させた。
緊張する。
「外だ」
洞窟の中から見える光。
「洞窟に入った時は、夕方だったよね?」
私の言葉にお父さんが一度立ち止まる。
視界に入る光から考えると、昼間だと感じる。
お父さんが、手を差し出すのでギュッと握る。
何が起きているのか、不安だけど調べるしかない。
洞窟を出ると、森の中なのは先ほどと一緒。
だけど、違う。
「かなり巨大な木だな。やっぱりさっきの場所とは違うようだ」
「うん」
お父さんと繋がっている手に力を籠める。
バサバサバサと森に音が響き渡る。
それにびくりと震えると、お父さんがぐっと抱きしめてくれた。
「リュウ……」
お父さんの緊張した声に、視線を向けると記憶の中にある龍がいた。
私たちを見ている。
シエルが前に出て威嚇するが、特に怖がっている様子は無い。
少し近付いて私たちをじっと見ている龍。
「シエル待て。敵意は無いようだ」
それは私も感じた。
ただ、私たちを見ているだけのような気がする。
私たちもどうしていいのか分からず、じっと龍を見る。
おもむろに龍が首を傾げる。
「もしかして困ってる?」
お父さんの言葉に、なんとなくそう感じたので頷く。
まるで、「なんでここにいるの?」と不思議がられているような気がする。
「あれ? えっ? 人?」
不意に聞こえた男性の声に体がびくりと震える。
あれ?
でも、この声を知っているような気がする。
「あっ!」
男性の驚いた表情をじっと見る。
やはりどこかで見た事がある。
どこでだっけ、それに名前……名前は……あっ!
「確か君は……翔さん?」
お父さんが半信半疑で名前を言う。
そうそう、翔さんだ!
「もしかして覚えてるのか!?」
翔さんが驚いた表情で私とお父さんを見る。
私は翔さんが言った言葉に戸惑いながら、頷く。
「どこで会ったのかは分からないのだが、会った事と名前を覚えている」
お父さんの言葉に、手で顔を覆う翔さん。
「マジか……あの駄神が」
だがみ?
ダガミという人がどうしたんだろう?
「ここにはどうやって?」
翔さんが少し心配そうに訊いてくる。
お父さんが後ろにある洞窟を指して、今までの事を説明する。
説明を聞いた翔さんから大きなため息が聞こえた。
「簡単に説明するな。えっと、驚くと思うがここは君たちがいた世界とは別の世界だ」
「「はっ?」」
「にゃ?」
お父さんもシエルも驚いている。
私も同じだ。
違う世界?
いやいや、そんな事が起こるわけが……でも、気付いたら知らない場所にいたんだよね。
そんな事もあったりするのかな?
「前は俺がドルイドさんとアイビーさんの世界に空から落ちたんだよ。で、今回はお2人が俺のいる世界に来た。たぶん駄神のせいだとおもう」
今回の事はダガミさんのせいらしい。
「あの、帰れますか?」
「あぁ、駄……アイオン神がきたら帰れると思うけど、それまで俺の家で過ごしてほしい。森の中は魔物がいるから、危ないし」
良かった、帰れるんだ。
それにしても、人を違う世界に送れる力があるなんて、この世界はすごいな。
「ありがとう。助かるよ」
お父さんのお礼に翔さんが苦笑する。
「謝る必要はない。2人は被害者だ」
アイオンシンと言えば、前に翔さんを迎えに来た女性がそんな名前だったな。
いつも一緒にいるのかな?
「もしかして、アイオンシンという人は翔さんの恋人ですか?」
私の質問に翔さんが固まる。
そして、ものすごい嫌そうな表情をした。
「えっと」
そんなに嫌なのかな?
「あぁ、そうか。説明不足だったな。彼女とはそんな関係じゃないから。だいたいアイオン神は神だし」
「カミ?」
お父さんと私は首を傾げる。
何だろう、カミが何か分からない。
「えっと、神様。もしかしてそっちの世界には神様という概念が無いのかな?」
あっ、神様か。
ん?
「「神様!?」」
お父さんと同時に驚いた声を出す。
それに少し驚いた様子の翔さん。
いや、驚くよ。
神様だったなんて。
「神様と言っても駄神だ」
「ダガミ……」
もしかしてダは駄?
カミは神?
駄神?
……神様にそんな事を言って大丈夫なのかな?
あ~、後ろにいる龍も頷いている。
どんな神様なんだろう。
気になるな。
「とりあえず、俺の家へ行こうか」
「悪い。世話になる」
お父さんの言葉に翔さんが苦笑いした。
「気にする必要は無いよ。あ~、俺の家には色々いるが、まぁ気にしないで。皆いい子だから」
色々いる?
いい子……何がいるんだろう。
すっごく気になる。
「ここから歩きだと時間が掛かるから、ふわふわに乗ってみる?」
ふわふわ?
お父さんと首を傾げていると、龍がすっと私たちの前に来る。
そして私たちへ視線を向ける。
「もしかしてふわふわとはこのリュウの事か?」
お父さんが驚いた声を出す。
私も正直、ドキドキしている。
だって、翔さんは「乗ってみる?」と聞いた。
つまり龍に乗れるの?
楽しそう。
「あぁ、こいつはふわふわという名前で水龍なんだ」
水龍なんだ。
確かにきれいな鱗を持っている。
薄い青色で光沢もあるのかな、光が反射してとても綺麗。
「ふわふわに乗って行ったら、すぐに俺の家に着くから」
…………
確かに、あっという間に家についた。
だけど、
「怖かった~」
「そうだな」
私の言葉にお父さんが苦笑する。
龍のふわふわさんに乗るのは、楽しかった。
ただし、途中からどんどん速度があがり、最後は怖かった。
あんなに速いなんて……よく振り落とされなかったな。
「悪い、もしかして速すぎたか? いつもの速さだったから気付かなった」
いつもの速さなんだ。
すっごく、速かったんだけど。
あれが通常なのか……翔さんすごい!
「いたー!」
「「「えっ?」」」
不意に聞こえた女性の声。
声の方へ視線を向けると、白い服を着た女性が私たちの方へ走ってくるのが見えた。
綺麗な女性だな。
あれは誰だろう?
「ドルイド、アイビー。彼女が駄神だ」
うわ~、翔さんすごくいい笑顔。
「やっぱり! 来ちゃ駄目! 繋がっちゃった!」
駄、じゃなくてアイオン神様は、目の前で混乱中のようで、何を言っているのかさっぱり分からない。
どうしようと翔さんを見ると、長ーいため息を吐いた。
それに苦笑していると、ふっと影が出来た。
上を見ると、巨大な龍。
ふわふわさんとは違い、今度は茶色の体を持つ龍が上空にいた。
地面に降り立つと龍は、アイオン神にぐっと顔を近付ける。
「はぅっ」
アイオン神の口からおかしな音が漏れると、なぜか緊張した面持ちになった。
あの龍は、神様より偉いのかな?
「アイオン神、彼らはちゃんと帰れるのか?」
翔さんの言葉に何度も頷くアイオン神。
「もちろん、今度こそ大丈夫。関りが深くなると、記憶に影響があるからすぐに彼らを元の世界に戻すつもりだ」
「また急だな」
アイオン神の返事にため息を吐く翔さん。
何だかアイオン神は神様っぽくないな。
神様にも位とかあるのかな?
下っ端とか?
……神様にこんな事を思っては駄目かな。
「ドルイド、アイビー。すぐに帰った方がよさそうだ」
「そうみたいだな。世話になった」
「お世話になりました」
「にゃうん」
また会いたいけど、世界が違うから無理だよね。
「こちらの手違いで申し訳なかった。ここでの事を覚えていると世界に影響があるので、忘れますので」
せっかく出会えたのに残念だけど、何か影響があるみたいだから仕方ないよね。
「元気でな」
翔さんの言葉に手を振る。
ほんの少しの時間しか関わっていないけど、なんだかすごく寂しいな。
お父さんと私とシエルの周りが光だす。
「さようなら」
手を振ると翔さんが手を振り返してくれた。
ふわっと体が浮く感覚……。
………………
「アイビー」
「お父さん?」
目を開けると、周りを見回す。
どうやら洞窟内で寝ていたようだ。
「にゃうん」
シエルも一緒だ。
近くにあったバッグがごそごそと動き、ソラとフレムが出てくる。
えっと、何があったんだっけ……あっ!
「「…………」」
記憶は無くなるって言っていたよね。
影響があるから忘れるって……。
「お父さん」
「アイビー」
視線が合うと、2人同時にため息が出た。
全部覚えているんだけど、これはどうしたらいいんだろう。
「さすが駄神だな」
「にゃうん」
お父さんの言葉にシエルが呆れたように鳴く。
それに苦笑が浮かんだ。
………………
アイオン神視点
「あれ? えっ? えっと……」
うそ!
3人の縁が切れてない!
繋がったままって……どうしよう。
これって、間違いなくやばいよね。
あ~、また怒られるよぉ。
今度はアイビーとお父さんを飛ばしてみました。
2回目なので、翔が慣れてきたような……。
11月10日より「異世界に落とされた…浄化は基本!」3巻発売スタートです。
よろしくお願いいたします。