01 運命の遭遇
私の姿を見て、青年はさぞかし驚いたことだろう。何せ、突然私が目の前に現れたのだから
。
実際、その通りだった。彼はわっと悲鳴を上げ、ハンガーに吊るしかけていたシャツを取り落とした。そして腰を抜かしたように座り込んでしまい、怖々と私を見上げた。
青年が以上のような反応を見せている間にも、私は分析を続行していた。ワンルームマンションの狭いベランダ。部屋の隅に見える、今から干されるところだった洗濯物の山。
「何なんだ、これ」
やや間があって、青年は呟いた。
『私は探索機だ』
まさか私が答えるとは思っていなかったらしく、彼は二度目の悲鳴を上げた。この星の現時点での科学力では、私のような存在が生み出されることはないのだろう。衝撃を受けるのも無理はない。
「しゃ、喋った」
ぽかんと口を開けて、青年は固まっていた。異常事態が発生しているというのに、どうも反応が鈍い。天然というか、あまり垢抜けていない印象を受ける。
彼は、目の前に出現した、直径三十センチほどの赤褐色の球体をまじまじと見つめた。中央部に彫られた溝が明るいグリーンに塗られている以外は、ほとんど単一の色で彩られている。金属板から成る物体が宙に浮いているというのも、彼からすれば奇妙に映るかもしれない。
「探索機って何だよ。もっと分かりやすく説明してくれ」
微妙に声を震わせて、青年は言った。私のことを怖がっているらしい。自分よりずっと小さなものを恐れるとは、人間とはつくづく変な生き物である。
『超古代文明の人間により、私は周辺地域の探査のため造られた。長い間眠っていたが、遺跡が発掘された際に何らかのショックが加わったのだろう。ともかく私は再起動し、現代の世界について理解するために活動を開始した』
これで満足か、とばかりに、私は―正確には私のボディー上部に取り付けられた小型カメラは―青年を見た。あらかじめ用意しておいた口上を読み上げただけなので、つっかえることもなく、我ながらすらすらと話すことができたと思う。
けれども、青年の方は納得した様子ではなかった。
「嘘だ。古代に、君みたいな高度な装置を造れる技術をもつ文明があったなんて、信じられないよ。新型のドローンか何かじゃないの」
『嘘ではない』
私は強い口調で断定した。信じてもらわなければ、話が先に進まない。
『確かに超古代文明は存在した。しかし、その技術を狙う異民族によって滅ぼされてしまったのだ。皮肉なことに、野蛮な侵略者たちには私のような機械たちの使い方を理解することができず、その大半は捨て置かれた。先日の発掘調査で掘り起こされるまで、目覚めることはなかった』
青年は記憶の糸を辿っているようだった。彼が人並みにニュースを見ている人間であれば、数日前、都内某所で大規模な発掘が行われたことは知っているはずだ。
彼は、半信半疑といった風な眼差しを私へ向けた。
「もしかして、君の仲間たちも再起動とやらを始めてるのかい」
『もちろんだ。だが、私たちは現代社会についての知識があまりにも乏しい。そこでしばらく君と行動を共にし、多くを学びたいのだが、どうだろうか。一番早くに覚醒した私が、同志たちに知識を分け与えてやれたらと思っている』
「……やれやれ、どうしたものかな」
頭を掻きながら、青年はゆっくりと立ち上がった。こうして見ると、思ったよりも背が高い。シャワーを浴びたばかりのようで、髪は僅かに湿っていた。
「とりあえず、話の続きは部屋の中でしよう。こんな人目につく場所じゃ、君も都合が悪いだろ」
そう言うと、彼は窓を大きく開け放ち、私を中へと招き入れた。
ファースト・コンタクトは比較的容易に成功したといえるだろう。