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夏の向日葵  作者: 暁紅桜
第6章_夏空の下
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16話《エピローグ》

夏休みが終わり、始まる二学期。しかし、未だ続く夏の日差しに肌を焼いて汗が溢れでる。

 二学期始業式。全校生徒が体育館に詰め込まれ、外以上に熱気がこもる。終業式と同じ、面白くもない、代わり映えもしない校長先生の話に、九割以上の生徒が飽き飽きしていた。


「あっちぃー……」

「早くおわんないかなぁ」


 ちらほらと聞こえる生徒たちのボヤキの声。

 立って聞いているから寝る生徒はいないものの、逆に立ちっぱなしというのも辛かった。

 まばらに聞こえる拍手の音。校長先生の話が終わり、次のプログラムに移る。後どのくらいかかるのだろうかと、数名の生徒は時計を気にし、数名の生徒は小声で会話をする。

 時間は、一日で考えればほんの一時間程度のことだった。だけど、生徒たちの体感時間は十数時間にもなっただろう。やっと始業式が終わり、生徒たちはそれぞれの教室に戻る。

 教室に戻れば、今度は担任の言葉。そして二学期についての話。進路の話をすれば数名が悲鳴混じりの声をあげ、数名が曇った顔。


「まだ進路決めてないやつはいないと思うが、しっかり勉強しろよ」


 その言葉を最後に、今日の授業は終わり。数名の生徒が一目散に教室を出て行く。


歌恋かれん。帰りどこかよって行こう。お腹すいちゃった」

「ごめん、この後予定があるから」

「え、なになにデートとか?」

「うーん、どうかな。ごめんね」


 友人に軽く手を振り、歌恋は少しだけ足はやに教室を出て行く。

 階段を降りて、二年の教室がある二階を通り過ぎ、一年の教室がある一階へと降りる。

 昇降口へと向かう後輩たちの波とは反対方向へと進んでいき、一年Cクラスへと足を運ぶ。すでにHRは終わっており、教室には数名の生徒が残ってる。


「ねぇ。春宮はるみやルミって、まだいる?」

「えっ、あぁ……春宮ぁ」


 ちらりと、声をかけた男子生徒を見た歌恋は、教室の中に目を向ける。名前を呼ばれて、ビクビクしながらこちらを見ているルミと目があい、彼女は慌てて帰り支度をして駆け寄ってくる。


「すみません歌恋さん。私が迎えに行こうと思ってたのに」

「ルミがうちの学年に来るなんて、兎が狼の巣に入ってるみたいなものでしょ。あっ、呼んでくれてありがとね」

「えっ、あぁ……はい」


 歌恋はそのままルミと共に教室を後にし、その足で美術室に向かった。

 今日は部活がお休みということで、教室の中には他の生徒の姿はない。


まことから聞いたけど、あの部屋、今度はルミが使うんだって?」


 準備を始めるルミに声をかけながら、歌恋は美術室のさらに奥の部屋に目を向ける。

 かつて椎葉しいばが使用していた特別な教室。今はもうすっかり片付けられており、何も残っていない状態だった。


「はい。断ったんですが、先輩がどうしてもって」

「……そっか」


 ルミと椎葉は始業式が始める前に、しっかりとお互いにけじめをつけた。歌恋も二人に頼まれて立会人として同席した。

 特に何か激しいやりとりがあったわけではない。最後に一言、椎葉はルミに祝福の言葉を投げかけた。



「幸せにね」



「歌恋さん」


 いつの間にかルミの準備が終わり、彼女に声をかけられて歌恋は我に返った。

 布のかけられたキャンバスの前にいる彼女の横に立ち、ルミは左側を、歌恋は右側の布を握って顔を見合わせる。


「「せーのっ!」」


 風で飛ばされたかのように布は二人の手から離れると、少しだけ宙を舞って地面に落ちる。

 隠されたその下から出て来たのは、まるで夏を切り取って貼り付けたかのような、目を奪われるものだった。


「どう、ですか?」

「……うん、すごくいいね」


 歌恋はそのまま、強く強くルミを抱きしめる。

 彼女から感じる愛情。それを返すように、ルミも強く強く歌恋を抱きしめた。

 そんな二人を見つめるキャンバスの裏には、この作品のタイトルが書かれていた。





【夏の向日葵】

 
















                                              

おわり


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