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夏の向日葵  作者: 暁紅桜
第1章_夏のバイト
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8話《ただ一緒に》 

家に帰った歌恋かれんは、ベットの上に倒れこんだ。

 両親は出かけており、家の中は静かで、外から聞こえる蝉の鳴き声が頭の中に響き渡る。

 それを聞くたびに、頭の中で先ほどのやりとりの光景を思い出す。そして徐々に、言葉もはっきりしてくる。



【俺に下心があるから、絶対に断らないって確信があったからだ】



 溜まった涙が頬をつたい、そのまま枕を濡らす。

 その言葉がショックだったといのは確かにあった。だけどそれ以上に、図星を突かれて、悔しくて、恥ずかしかった。夕月ゆづきに八つ当たりした自分が許せなかった。

 もう会うことはできない。ルミの護衛も、これでは続けることもできなかった。ルミに謝ろう。そう思ってスマホに手を伸ばせば、数軒メッセージが送られていた。



ルミ:先輩、大丈夫ですか?



 その時、ハッと歌恋は思い出した。家を出るときにルミの隣を通り抜けたことを。心配してメールをくれたんだと思うと、申し訳なさがこみ上げてくる。


歌恋:心配かけてごめんね。大丈夫。

ルミ:兄さんがごめんなさい。あとできつく言っておきます

歌恋:気にしないで

歌恋:けど、ごめんね。もうルミのこと送ってあげられない。


 春宮はるみや家に行けば、夕月と会うかもしれない。ルミには申し訳ないが、歌恋はもうあそこまで行く勇気はなかった。



ルミ:それは、嫌です。



 ルミから送られてきたのは、拒絶の回答だった。歌恋の予想では、「仕方ないですね」「わかりました」と返ってくると思っていた。だけどルミは、はっきり「嫌だ」と送ってきたのだ。


 ルミ:楽しみにしてるんです。先輩が家に来て、一緒に学校行くのが。先輩が部室にいるときは、部活しないでお話ししたいんです。


「ひっ……ひぐっ、ぅ……」


 歌恋はルミに対して申し訳ないと思っていた。元々は、彼女の兄である夕月への下心で護衛のバイトを受けた。それは、彼女も途中で知った。それでも、彼女は嫌だとは言わずに、何も言わずに、歌恋の送り迎えを受け入れた。だけど今日、夕月とあんなことが起きて、もう無理だと。当の本人であるルミの気持ちなど無視して、自分で結論づけた。

 ルミは言ってくれた。「楽しみにしている」と。どんな理由であれ、歌恋が家まできて、一緒に学校に行くのが、今のルミにとっては楽しみで仕方がないのだ。


ルミ:それに、弓道してるところを描かせてもらう約束、守ってもらってないです。


 きっと今、ルミは笑ってるんだろうなと、歌恋は文面を見て思った。そして、思わず笑ってしまった。


歌恋:確かにそうだね。それに、私もルミに会うのがいつも楽しみなんだよ。


 その文を打ち込んだ後、歌恋は天井を見上げて一息つき、胸に手を当てた。さっきまで、何かが満たされなくて、カラカラで仕方なかったのに、今は胸が苦しくて、口の中から溢れて出てきそうなほどに満たされていた。


 ルミ:それじゃあ、また明日。

 歌恋:うん。また明日



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