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夏の向日葵  作者: 暁紅桜
第6章_夏空の下
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14話《熱》

「風邪、ですか?」


 それはプールに出かけた数日後のことだった。二学期が明後日から始まる時期、家で椎葉しいばにオススメされた小説を読んでいた歌恋かれんの元に、夕月ゆづきから連絡がきた。


『そう、夏風邪みたいでさ』

「そうですか。もしかして、もう少しで夏休みが終わるからそれで……」

『お前じゃないんだから』

「失礼ですね」


 ルミが熱を出して寝込んでいるという連絡を受けた歌恋。声では平然を装っているが、心の中で心配で堪らなかった。


『でだ、お前ちょっと夕方までルミの看病してくれないか?』

「バイトですか?」

『そうそう』

「風邪で寝込む妹よりバイトを選ぶなんて、鬼畜ですね」

『俺もできれば面倒見たかったけど、こういう日に限ってバイトが人手不足なんだよ』


 見計らったような神様のフラグ立て。それを理解した歌恋は了承する。


『すみません、歌恋さん……』


 わずかに聞こえるルミの弱々しい声。夕月が寝てるように宥めているようで、歌恋は夕月に「わかりました」と返事をして通話を切る。

 軽い身支度を済ませると、リビングで昼ドラを見ている母に声をかける。


「お母さん、出かけてくるね」

「んー、夕飯の時間には戻ってきなさいよ」

「はーい」


 特にどこに行くかは尋ねず、母は了承の意味を込めて軽く手を振った。

 サンダルを履き、玄関を開けた瞬間に、夏の日差しに目を細めて空を見上げる。


「桃缶とアイス……行く前にスーパー寄るかな」


 誰に言うでもなく、歌恋は太陽照りつけるアスファルトの道を歩いて行く。





 スーパーで買い物を済ませ、春宮はるみや家のインターホンを鳴らすと、中から人が出てくるのを待った。


「おぉー、悪りぃ」

「あれ、先輩まだいたんですか?」

「流石に病人を一人にできないからな。んじゃあ俺バイト行くな」


 軽く歌恋の肩を叩くと、夕月は走ってバイトへと向かった。そんな彼の背中をしばし見つめた後、歌恋は家の中に入った。


「お邪魔しまーす」


 小声で挨拶をして家に上がると、ルミの部屋にはいかずに一度リビングへと足を運ぶ。


「失礼しまーす」


 冷蔵庫の中に買ってきたアイスや缶詰、それから熱冷ましシートを入れると、ルミの部屋へと足を運ぶ。

 軽く数度、扉をノックすれば、中から弱々しい声が聞こえ、歌恋は中に入る。


「ルミ、大丈夫?」

「ぁ……歌恋しゃん……いらっしゃいです……」


 熱のせいか、あまり呂律が回ってないルミは、横になったまま歌恋を出迎える。普段のルミならきっと体を起こしただろうが、流石に起き上がる気力もないみたいだった。


「体調はどう?」

「あまり……れも、二学期前に、でて、よかったです……」 


 ヘラっと笑みを浮かべるルミ。歌恋は苦笑いを浮かべながら目線をルミに合わせると、優しく頭を撫でてあげた。


「歌恋さんの手、冷たい……」

「さっき冷蔵庫開けたからね。お昼まだなら作るけど?」

「あ……食べてないれふ……」

「じゃあ何か作ってくるよ」


 立ち上がり、歌恋はそのまま部屋を出ようとした。だが、不意にルミが服を掴み、歌恋は彼女の方を振り返った。


「どうした?」

「……ごめん、なさい……ちょっと寂しく、なって」

「……すぐ戻ってくるから」


 先ほどと同じように、ルミと目線を合わせ、歌恋は優しく頭を撫でてあげた。

 それが心地いいのか、ゆっくりとルミの瞼が閉じていき、やがて小さな寝息をたて始めた。


「よしっ、頑張って作りますか」


 改めて立ち上がり、歌恋は部屋を出て、食事の準備を行った。



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