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夏の向日葵  作者: 暁紅桜
第6章_夏空の下
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1話《少女の夢と少女の感性》

「んー……ん?」

「完成?」


 あれから数日。以前と同じように、歌恋かれんがルミの家に迎えに行き、一緒に学校へとやってきた。

 ストーカーの問題が解決し、二人の関係は終わりではなく、別の形に変わって続いていた。

 あの日、美術室に戻るとすでに椎葉しいばの姿はなく、黒板の隅に一言、「戸締りはお願いね」とだけ書かれていた。

 その後、少しだけ絵を描いて、二人は正門へとやってきた。そこにはルミの迎えに来ていた夕月ゆづきの姿があった。


「……よかったな」


 その言葉の意味が、仲直りできたことに対してなのか、それとも別のことに対してなのかは分からなかった。だけど、二人は顔を見合わせた後、笑みを浮かべて返事を返した。


「ちょっと悩み中です」

「何か物足りない感じ?」

「はい」


 ずっと描き続けていたルミの絵。夏空の下に広がる向日葵。十分に見応えのあるものではあるが、描きて本人はなにやら納得していないようだった。


「これじゃ、ただの向日葵畑の絵です」

「それじゃダメ、なんだよね」

「はい」


 返事を返した後、唸りながら首をかしげるルミ。

 そんな彼女を後ろから抱きしめ、頭の上に顎をおきながら、キャンバスの絵を、歌恋はじっと見つめる。

 不意に、前に見た夢のことを思い出した。夏空の下に広がる向日葵畑の中、顔もわからない少女が立って、笑みを浮かべてこちらに振り返る姿を。


「……ここにさ、太陽描いて、その太陽を見上げる、真っ白いワンピースと、大きな麦わら帽子をかぶった女の子の横顔とか描いたらどうかな?」

「え?」

「前に夢で見たんだ。こういう景色の中にいる、女の子姿。それに、前に聞いたでしょう。なんで向日葵を描いてるのかって」


 過去の自分の言葉を思い出し、ルミは思わず笑みを浮かべた。


「そうですね……なんだかイメージ湧きました」

「それはよかった」

「でも、そんな夢見たんですね……なんか複雑な気持ちです」

「え、なんで」

「だって、女の子が出てきたって……」


 ムッとした表情を浮かべるルミ。ヤキモチを焼いてくれてるんだと思うと、それが嬉しくて、歌恋はルミを後ろから強く抱きしめた。


「大丈夫だよ。顔わかんなかったし、もしかしたらルミだったのかもしれない」


 あの時は、ルミのことをたくさん考えて悩んだ。だから、顔はわからなかったけど、もしかしたらあれは、ルミだったのかもしれないと、今更ながら歌恋は思った。


「んじゃ、がんんばるルミのために、私はジュースでも買ってきますか。何がいい?」

「あ、私も行きます」

「いいからいいから。外暑いし、お姫様はここにいてください」

「もう、先輩すぐそういうこという……りんごジュース」

「はいよ。任せときなさいな」


 軽く頬にキスをし、ひらひらと手を振りながら歌恋は教室を出て行く。

 顔真っ赤にしながら、ルミは俯き、キスされた頬に触れ、小さく呟いた。


「ばか……」


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