17話《押さえられない気持ち》
ゆっくりとルミの体が離れていき、俯き気味に、顔を真っ赤にする彼女の姿が歌恋の瞳に映る。
「それは……」
「先輩にキスされたことも、好きだと言われたのも、嫌じゃなかったんです……まるで当たり前で、自然なことで……」
ギュッと胸を押さえ、ゆっくりと瞳を閉じ、今までの光景を思い出す。
頭を撫でられたこと、抱きしめられたこと。近かった顔の距離。自分に向けられた言葉の一つ一つ。それを思い出すたびに、ドキドキと激しく心臓が動き始める。
「先輩が一緒にいるのが当たり前で、離れていくなんて思いませんでした。連絡が取れないときも、ずっと先輩のことを考えてました。その時に、まるでパズルのピースがはまるように、ストンと気づいたんです」
歌恋の右手を取り、両手で優しく握り、ルミはにっこりと笑みを浮かべる。
「あぁ私、先輩が好きなんだって……」
グッとこみあげてくる感情。今にも泣き出したくて、彼女を抱きしめたかった。だけど、歌恋はそれを躊躇った。
「ルミ……その好きは、きっと違う好きだよ」
自分で否定して、自分で傷ついた。
そう……同性を好きになるなんて普通はありえないことだ。たしかに、異性同士じゃできないことがたくさんできるからこそ、勘違いするかもしれない。ルミのそれもきっと勘違いだ。そうに違い。何度も何度も自分にそう言いきかせ、歌恋はルミから距離をおこうとする。
「逃げないでください!」
握った手を引き寄せ、ルミは歌恋の動きを止めた。わずかに震える手の感触。歌恋はルミの言葉を待つ。
「そう思われても仕方ないです……だって、こんな気持ち初めてです。でも誰が何といようと、私は先輩に恋してます」
「だからそれは……」
「ヤキモチ焼きました!」
感情は吐き出すような大きな声。さっきよりも顔を真っ赤にさせ、プルプルと震えながら、ルミはポツリポツリと言葉を零していく。
「撮影の日、自分じゃなくて高崎先輩と帰ったのこと、椎葉先輩とばかり話してること……自分じゃない誰かに意識が向いてるのが嫌でした……」
羞恥心を必死で押さえながら、ルミは歌恋に、自分の中にある嫉妬……欲望を吐き出していく。歌恋は、ただ黙ってそれを聞いていた。そして、心の中で思う。それ以上何も言わないでほしいと。
「それから、それから……」
泣きそうになる彼女の姿を見て、歌恋は握られている右手を引き寄せ、そのままルミを抱きしめる。
「せ、せんぱ……」
「もういいよ。ごめん、そんなこと言わせたくなかったんだ」
強く抱きしめながら、必死に押さえていた感情を言葉として彼女に伝える。
「好きだよ」




