16話《夏空の屋上》
ルミに手を引かれ、連れてこられたのは学校の屋上だった。日陰など一割もなく、夏の日差しが直接差し込む場所。連れてこられた歌恋も、連れて来たルミも、互いに汗を滲ませる。
「……焼けちゃうし、中に戻ろう」
ルミが背を向けたまま全く喋らず、長い長い沈黙が続き、耐えきれなくなった歌恋がそう彼女に声をかけた。
「どうしてですか……」
「え?」
聞き取れなかった歌声が小さく声を漏らした時、ずっと背を向けていたルミが、髪をなびかせながら振り返る。
必死に泣くのを耐えながらも、目から溢れる涙。何度も何度も鼻をすすり、美術室での表情とは一変し、ホッとするほどいつものルミの雰囲気に戻った。
「何度も何度も連絡したのに、先輩返信くれないし。あんな一方的なメールで納得なんてできません!」
「いや、それは……」
「それに、あんなことされて、それでバイバイなんて!余計に腹が立ちます!」
地団駄を踏みながら、叩きつけるように言葉を投げるルミ。今までに見たことのないルミの姿に、歌恋はただただ戸惑いを隠せなかった。
「だって、それは……」
「だってじゃないです!先輩、私があれで嫌いになると思ったんですか?」
「それは……」
否定はできなかった。
確かに自分の気持ちに区切りをつけるため、これ以上下心でルミと関わりたくなかったから連絡も一切しなかった。でもやっぱり、あんなことをしてルミに嫌われたと勝手に思っていた。だから、本人にそれを問われて、「そんなことはない」と断言することはできなかった。
「バカにしないでください……」
「え……」
「私が先輩を嫌いになるわけないじゃないですか!」
歌恋の心に重くその言葉が刺さる。悲しくなる、傷ついたということはなく、ただただ嬉しく、胸が握りつぶされるほど苦しかった。
「なんで……私、あんなことしたのに……ずっと、下心でルミの側にいたのに……なんで」
ルミは正面からギュッと、歌恋を抱きしめた。互いに感じる久しぶりの感覚。無意識に歌恋の手がルミの頭に伸びるが、それを歌恋は途中でやめた。
「今更です。だって、最初は兄さんへの下心で私の護衛をしてくれたんじゃないですか。それに……」
抱きしめる力が強くなっていく。歌恋の額から汗がにじみ出て、そのまま頬をつたってポタポタと、熱せられた地面に落ちていく。
「嫌じゃ、なかったんです……」




