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夏の向日葵  作者: 暁紅桜
第5章_夏の嵐
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15話《切り刻まれる弱い自分》

「何度言えばわかるんだい……」

「それはこっちの台詞だよ。何度も言わせないで」


 頭を抱える椎葉しいばと、恐怖を必死に抑えながらも鋭く椎葉をみる歌恋かれん

 互いに譲る気持ちは変わらない。椎葉や歌恋が言いやったところで、現状が変わることはない。一般的に見れば、歌恋の方が正しい考えを持っている。だけど、椎葉にとっては自分の考えが間違ってるだなんて思ってもない。歌恋と椎葉は平行線上に立っている。

 だけどただ一人だけ、この状況を打破できる人物がいる。歌恋に守れながら、壁と彼女の背に挟まれ、ビクビクと怯えるルミは、目の前にある背中に掴みそうになりながら、二人の様子を見ていた。


春宮はるみやさん、僕の側に来て。大丈夫、君に何かするつもりはないよ」

「先輩……」

神薙かんなぎさんは勘違いしてるんだ。僕は春宮さんを傷つけるつもりはないよ。君は何も心配しなくていい。僕に任せれば、君は幸せになれる」


 にっこりと笑みを浮かべる椎葉。不安げな表情を浮かべるルミは、自分を守る歌恋を見る。だけど彼女は振り返らない。

 俯くルミ。彼女は奥歯を噛み締め、グッと拳を握りしめると、歌恋の背中から体を出して、彼女の前に立つ。


「ルミ?」

「椎葉先輩……」

「お礼なんていいよ。さぁ、僕のそばに……」

「ごめんなさい」


 椎葉の言葉を遮るように、ルミは頭を下げて謝罪した。言われた椎葉はもちろんだが、歌恋も驚いた表情を浮かべる。


「先輩の、気持ちには答えられません」

「な、何を、言って……」

「私には好きな人がいます」


 言われた椎葉、聞いていた歌恋は息を飲む。当然自分だろうと、椎葉は聞くつもりだったが、不思議とそれを聞くことができなかった。その時の彼女は、いつもの気弱な表情も仕草もなく、まっすぐに椎葉のことを見ていた。


「先輩の気持ちはすごく嬉しいです。けど私は、先輩じゃない、別の人が好きなんです……」

「どうして……なんで、僕じゃ!」

「私は、先輩の考えてることがわかりません、したいことがわかりません」

「そんなことあるはずない!僕は君の気持ちがわかる。僕たちは!」

「先輩の作品は好きです。考え方も興味を惹かれます。私にとって椎葉先輩は尊敬できる先輩で、恋心を抱いているわけではありません」

「そんな、はずは……」


 現実を受け止めることができない椎葉は、一歩、また一歩と後ろに下がり、その場に膝をついた。

ルミは椎葉と同じように彼の前で膝をつき、彼の持っていたカッターを手にし、奥にある、彼が描いたルミの裸体の絵の前に立った。


「春宮、さん……」

「椎葉先輩……これ以上何かやるというなら、流石におおごとにしないといけません」

 


ザクッ! ザクッ、ギシ……ザクッ!

 


 手にしたカッターでキャンバスを力いっぱい切り刻む。二人はその様子を、唖然と見ていた。

 息を荒げながら切り刻まれたキャンバスを見つめるルミは、呼吸を整え、振り返って椎葉に笑みを浮かべた。


「言いましたよね、先輩の絵は好きだって。だから、これからも絵を描き続けてください」


 手にしていたカッターを椎葉に渡すと、ルミは歌恋の手を握り、いまだに唖然とする彼女を見つめる。


「先輩、こっちです」

「え?」


 ルミに手を引かれ、歌恋は教室を出て行く。

 扉が閉まると同時に、椎葉は二人の輪から切り離されてしまい、一人、美術室に座り尽くした……。


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