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夏の向日葵  作者: 暁紅桜
第5章_夏の嵐
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11話《恐怖》

椎葉しいば……?」

「別に、僕は否定されたいわけでも、正して欲しい訳でもないんだよ。僕はね、ただもう抑えられないんだよ、神薙かんなぎさん」

「んグッ!」


 強く、押し込むように椎葉は歌恋かれんの口を左手でおおうと、制服のポケットから、一本のカッターを取り出した。それを見た瞬間に、これからされるであろう事に歌恋は酷く怯えた。


「気持ちが悪いんだ。体の中にある感情が、行き場のないこのモヤモヤと苛立ちが……これは、きっと君がいなくなる事で解消されるんだよ」

「んっ!んグッ!」

「彼女のことがずっと好きだった。なのに、彼女のそばには君がいて、僕がしたいことをさも当然のように、なんの悪意もなくやってる」

「ふっ!」


 首筋に感じる冷たい刃の感触。そして、少しだけピリリと感じる痛み。

 必死に抵抗しても、彼を押しのけることができない。ただ恐怖に怯えながら、歌恋は必死にもがき続ける。


「写真を切りつけて満足できないなら、君を切りつけるしかないよね」

「んっ、んグゥっ!」

「君が悪いんだよ。僕から春宮はるみやさんを奪って、汚して……大丈夫、君が心配していることは何もない。これは全部、彼女のためだから」


 ゆっくりと、刃の出されたカッターが上に登って行く。

 歌恋は涙を流しながら、ギリギリまで必死に抵抗した。遠くから聴こえる蝉の鳴き声と運動部のかけ声は、平和そのものだった。絶望的なその現状には、あまりにも冷たすぎる音だった。


「言っただろ。彼女を汚した君に、絶望を与えるって」


 椎葉には、もうどんな言葉を投げかけても無駄な気がしていた。彼は自分自身しか信じていない。だから、これからやろうとしている行為にも、悪意などは全くない。


「神薙さんとはもっと仲良くしたかったよ。こんなことがなかったらね」

「ふっ……ングっ!ふ」

「じゃあ、バイバイ」


 あまりにもあっさりとした言葉と声音。激しく心臓が動き、恐怖で歌恋は目を閉じる。



「やめて!」



 勢いよく扉が開き、この場の誰でもない、愛らしい声が苦痛の声をあげた。

 突然のことで放心状態の二人は、ゆっくりと出入り口の方を見た。

 椎葉の体から、歌恋の体からどんどん力が抜けていき、じっと、息を荒げる彼女の姿を見つめる。


「ルミ……」


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