表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
夏の向日葵  作者: 暁紅桜
第5章_夏の嵐
55/80

9話《冷たく黒く歪んだ感情》

「違う?どうして?僕と神薙かみなぎさんの好きは同じ恋愛的な好きでしょ?それに違いなんてないよ」

「あるよ。言ったでしょ、椎葉のそれはひどく気持ちが悪いって」


 顔を歪ませ、睨みつけるように彼を見る。

 椎葉しいばの好きは、最初に歌恋かれんが言ったように、一方的なものだ。相手のことなど考えてない上に、相手も絶対に自分が好きだという勝手な妄想を抱いている。自分の感情の押し付け。


「ルミが、どれだけ怖がってるかわかる?」

「怖がってる?そんなことないよ」

「どうしてわからないの?誰かに四六時中見られてるなんて、そんなの怖に決まってるでしょ?」

「怖いなんてありえない。だって、僕と春宮はるみやさんは運命で結ばれてる。愛し合う運命なんだよ」


 その表情は何か確信があるものだった。そして、続けて椎葉は歌恋に「君にはわからない」と言った。


「彼女と僕は互いに分かりあえてる。絵の好みも、感性も。僕と彼女は一緒。才能なんてどうでもいい、彼女は僕の理解者。そして、彼女も僕の理解者だ」


 演説するように、高々と語る椎葉。そして歌恋に、また彼は哀れむような目を向ける。


「まぁそうだよね。君には何もないから、理解なんてできないよね。やりたいことも何もなくて、ただなんとなく、好きだった相手と同じところに行く」


 グサグサと突き刺さる椎葉の言葉。それに、歌恋は言い返すことはできない。


「確かに君のいう通りだよ、僕の感じる好きと君の感じる好きは違う。君のそれはあまりにも中途半端だ。拒絶されるのが嫌で、結局は逃げてしまった」


 歌恋に背を向け、彼は先ほど途中で描くのをやめたキャンバスの前に立つ。


「僕と君とじゃ覚悟が違うんだよ。僕は本気で彼女が好きだ。声が聴きたい、触れたい、ずっと見ていたい。汚れのない、真っ白な、キャンバスのような彼女を」


 エアコンの風で揺れるカーテン。そして、彼のキャンバスにかかっていた布が煽られ、そのまま地面に落ち、絵がその姿を現す。


「ぇ……」

「美しいだろ。僕の想像でしかないけど、結構忠実に描けてると思うんだ」


 愛おしげに、椎葉はキャンバスに触れる。だけど、歌恋はその絵に怯えていた。


「タイトルはね、【愛しい百合】っていうんだ。ぴったりだろ」


 そこに描かれていたのは、周りにたくさんの百合の花が散りばめられた白いベットの上で、生まれたままの姿で横たわる、ルミの姿があった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ