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夏の向日葵  作者: 暁紅桜
第5章_夏の嵐
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8話《暖かなピンク色の感情》

「なんで……」


 力なく手が離れていき、歌恋かれんは一歩、また一歩と後ろに下がった。


「言ったじゃないか。いつもみてるって。花火大会の日も、君たちのことをずっとみてたよ」


 いつもの笑顔のはずだった。だけど、その時はその表情が恐ろしいものに感じた。足が、手が震え、吐き気がこみ上げてきて、今にも泣き出しそうだった。

 だけど……。


「だったら、なんだって言うの」


 わずかに身を引いていた体を前に出し、まっすぐな瞳で椎葉しいばのことを歌恋は見た。


「確かに、自己満足と陶酔行為だと思う。そんなことわかってる、だから私はあの日を最後に決めた」


 これ以上、下心を抱いたまま、ルミと一緒にいることはできなかった。夕月ゆづきの時とは違う、抱いているこの感情を、歌恋はいけないものだと思った。ただ側に居られればいいなんて、そんなことができるはずがなかった。側にいればいるほど、欲張りになっていく。それが怖かった。初めて抱いた《執着心》。それを感じ取ったときに、歌恋は思い出した。


【欲望って、一番汚いものだと思うんです】


 今まで抱いたことがなく、羨ましいとさえ思った激しい欲望。だけど、それがわかった瞬間に体は、心が苦しくなっていった。

 ルミに名前を呼ばれるたびに、触れるたびに、心の奥底にいる欲望が体の中で暴れまわる。抑えられなくなりそうで、怖かった。


「ルミには笑っていてほしい。怖い思いをしないで、いつも笑顔でいてほしい。だから私はルミの前からいなくなった」


 グッと胸の前で手を組み、もうずっと聴いていない、見ていない、大好きな彼女の姿を頭の中に思い描く。


「私はルミが好き。大好きで仕方ないよ!」


 そんな純粋な思い、感情を持っている歌恋に対し、向かい側に立っていた椎葉は、哀れむような、どうでも良さそうな、なんとも冷たい目を向けていた。


「そんなこと知ってるよ。こんなことまでしてるんだ、今更言わなくてもわかってるよ。君も僕と同じ……」

「違う!」


 彼の言葉を遮るように、激しく言葉を発する。


「違う……私のこの気持ちと、椎葉のそれを、一緒にしないで……」


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