3話《小さなモンスター》
顔いっぱいに漂う畳の香り。背中に感じる重みに押しつぶされながら、歌恋はうめき声をあげていた。
「かれんちゃん、あそぼ!」
「あーそーぼ!」
続々と親戚が集まり、小学生の従妹弟たちが、部屋で俯せになって動かなくなっていた歌恋の背中に乗ってジタバタと暴れていた。
暑さで死んでいたのに、背中で暴れる小学生男女子に、背骨を折られて物理的に死んでしまいそうになっていた。
「暑いからやだ」
「かれんちゃんつまんない!」
「つまんない」
従妹弟たちは歌恋の背中から降りると、今度は彼女の体をゆすり始めた。
「あーあ……私で、遊ぶなぁ……」
夏の暑さと、体を揺さぶられて頭痛と吐き気に襲われる。体がだるいから抵抗もできず、二人にされるがままだった。
「歌恋。って、あら。遊んでたの?」
「この状況でそう言えるお母さんすごすぎ」
体を仰向けにすれば、二人はお腹の上に覆いかぶさり、甘えるように顔を擦りつけてくる。母親は、それを微笑ましそうに見つめる。
「で、何。買い物?」
「そう。鉢盛り頼んでるから受け取って来て欲しいの」
「外行くの!」
「行く」
「よし、荷物を持つなら同行を許可しよう」
「持つ!」
「持つぅー!」
「重いの持たせちゃダメよ」
「そこまで酷い人間じゃないよ」
体をゆっくりと起こし、そのまま立ち上がるが、一瞬クラっと立ちくらみをしてしまった。なんとか踏ん張って、足元にいる従妹弟たちの手をとった。
「遅くならないようにね」
「はーい」
歌恋は母親に生返事を返す。少し気だるそうにする彼女に反し、仲良く歌恋の片手を握っている従妹弟たちは、嬉しそうに顔を見合わせていた。




