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夏の向日葵  作者: 暁紅桜
第5章_夏の嵐
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1話《夏の音》

けたたましい蝉の鳴き声。無機質な扇風機の音、耳に心地いい風鈴の音。それらが一度に耳に入っては、逆側から出て行く。

 畳の上で、ただ死んだように横になり、開かれら襖の向こう側。縁側でお茶お飲む祖母の背中の先、庭に咲く向日葵と、入道雲が浮かぶ夏空を、歌恋かれんはただぼーっと眺めていた。

 現在歌恋は、父方の実家へと遊びにきていた。お盆の三日間はいつも遊びにきており、明日には他の親戚もやってきて、一種のお祭り騒ぎになる。


「暑かねぇ」

「ん……」


 宿題も終わり、特にやることがなくて、家についてからはずっと、薄暗い和室で、扇風機の生ぬるい風を浴びていた。


「お勉強はどげんね」

「んー……ぼちぼちかな」

「そうね……歌恋も今年で高校も卒業やね」


 ゆっくりと話す祖母に、ぼーっとした意識の中では、うまく返答ができず、冷たい回答になってしまっていた。


「おばあちゃん、そこ暑くない?」

「暑かよ?でも、お日様浴びると気持ちよかよ」

「そっか……」

「歌恋」

「ん?」

「なんかあったとね?」

「……別に、何もないよ」


 ズズズとお茶をすすり、祖母は小さく「そうね」と言って、それ以上は聞いてはこなかった。


「歌恋は将来、なんになるとね?」

「わかんない」

「やりたいことはなかとね?」

「おばあちゃん、さっきから質問ばっかだね」


 将来やりたいことなんてものは、今の歌恋にはない。何もないから、この大学に行きたいというこだわりもない。


「でも最近、楽しいことはあったよ」

「ほぉー、それは良かったのう」

「けど、この前それもやめちゃった」

「なんでね。楽しかったんやろ?」

「だからかな。楽しいが、苦しかった」


 ルミとの日々は本当に楽しかった。胸がときめいて、もやが掛かっていた世界が、キラキラと輝いていた。だから、これ以上下心でルミに接することができなかった。だから、最後にしようとずっと思っていた。キスも、告白も、全部……歌恋にとっては、自分が苦しまないための行為だった。


「そうね。まぁ苦しかとなら仕方なかばってん、それでいいとね?」

「……わかんないよ」


 祖母に背を向け、歌恋はゆっくりと瞼を閉じた。

 暗闇の中、ルミの眩しい笑顔の姿が浮かび上がり、再び目を開いたとき、うっすら涙が浮かんでいた。


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