13話《終わり》
「夕月。すまないが、看板を下げて来てくれ」
「はーい」
遠くから聞こえていた花火の音が消えた頃。夕月の親戚が経営する花屋は閉店準備を始めた。
店の前には、花火大会に行っていた人たちが帰宅しており、夕刻と同じぐらい賑わっていた。
「俺も行きたかったなぁ……ん?」
視界の端、立ち止まっている人物がいることに気づき、夕月は看板を持ったまま振り返った。
「ルミ」
花火大会にと、綺麗な桜の浴衣を着た妹のルミ。俯き、その場から動かない彼女の側に夕月は駆け寄る。
「どうしたここまで着て。歌恋は?一緒じゃないのか?」
「……用事ができたからってここまで送ってくれたの」
「そうなのか……楽しかったか?」
俯いたままのルミは、小さくこくりと頷いた。
手には二匹の金魚が泳ぐ巾着と、買ったばかりのりんご飴が握られている。それを見て、夕月はにっこりと笑みを浮かべる。だけど、すぐに不思議そうな顔を浮かべる。
「何かあったか?」
「え……」
「元気ないっていうか……楽しかった割には、なんか暗い?」
「そ、そんなことないよ。すごく楽しかった」
顔を上げ、ルミはえへへと笑みを浮かべる。夕月は腑に落ちない様子だったが、それ以上追求はしなかった。
「あとで話聞かせてくれよ」
「う、うん」
「おぉ、ルミちゃん。お祭りに行ってたのか?」
その時、店からおじさんとおばさんが出てきて、着飾っているルミに声をかける。
褒めちぎられて顔を真っ赤にするルミ。いつも通りの彼女に、ちょっとだけホッとして、夕月は笑みを浮かべる。
その時、ポケットにしまっていたスマホが震え出す。ポケットから取り出し、送り主を確認すると、夕月はわずかに声を漏らす。
「歌恋からだ」
特になんの疑問も抱かずに、夕月は内容を確認する。
「……なぁルミ」
浮かべていた笑みは消え、ただただ驚きの表情を浮かべていた。
「本当に、何もなかったのか?」
その問いかけに、ルミは不思議そうに首をかしげる。
【こんばんは先輩。急ですみません……今日で、ルミの護衛のバイト。やめさせてもらいます】




