12話《花より宝石》
お祭りの人波から外れ、ミニカステラと型抜きの屋台の間の道を進み、明かり一つない石段を登って行く。長い長い階段を登り、やっとの思いでたどり着いたそこは、古びた神社だった。
渋い声の店主に教えてもらったそこは、穴場の場所らしく、明かりが全くないから花火が綺麗見えると。
確かに遠くに祭りの明かりが見えて、目が暗闇に慣れていないと全く見えないほどだった。
「怖くない?」
「は、はい。平気です」
ぎゅっと服の裾を握るルミは、少しそわそわしている様子だった。花火が楽しみ、というわけではなくて、わずかに歪む顔は、暗闇に対する恐怖心を抱いているようだった。
「大丈夫だよ、花火もすぐに始まるし」
「は、はい」
とても静か。わずかに虫の鳴き声が聞こえるだけで、お祭りの音も全く聴こえない。まるで、この世界に自分たちしかいないようだった。
「先輩?」
歌恋は、そっとルミの頬に触れた。視覚的に彼女の顔を捉えることができず、手でルミの顔のパーツの位置を把握する。
頬に触れ、親指で下唇に触れる。
「く、くすぐったいです」
わずかに吐息を漏らしながら、ルミは小さく笑う。
ヒュ〜……————————————— ドンっ!
黒紫に染まる空に、大輪の花が咲き誇った。
花火が始まり、そちらに視線を向けようとしたが、二人は動かなかった。
辺りが明るくなった瞬間、ルミの目の前に歌恋の顔があり、じっと彼女を見つめていた。
歌恋は宝石のような大きな瞳を見つめ、ルミまた同じように、自分を見つめるその瞳に、吸い込まれそうになっていた。
ゆっくりと歌恋の宝石に布が被されていき、彼女の顔が近づいてくる。
ヒュ〜……————————————— ドンっ!
外側は水色、中はピンク色の大きな花火が打ち上がる。それとほぼ同時に、歌恋の唇とルミの唇が重なる。
ルミの瞳が大きく開き、手に持っていたりんご飴がぼとりと地面に落ちてしまった。
ゆっくりと唇が離れ、歌恋はにっこりと笑みを浮かべる。ルミは何がなんだかわからず、ただじっと歌恋の顔を見つめていた。
「せ、んぱ……」
「好きだよ、ルミ」
その言葉は、不思議と自然なものにルミは感じた。歌恋も、恥ずかしさもなく、ただ今抱いているモノを言葉にしてルミに伝えた。
結果がどうなってもいい、ただ伝えたかった。そして、もうこれ以上は一緒にいることはできないと思った。だって、もうここから先は、どんな行動も、ルミから見たら下心になってしまうから。
「あ、りんご飴落ちちゃったね」
地面に落ちたりんご飴には、すでにたくさんのありがたかっていた。
「帰りに買い直さないとだね」
いつも通りの笑みを浮かべると、花火の方に体を向けて顔をあげた。
ルミはしばしその横顔を見つめた後、ぐっと胸を抑えて俯いた。耳に激しく聞こえる花火の音、だけどそれ以上にさっきの言葉が、鮮明に耳に残っていた。




