11話《水中を舞う三色(さんしき)の人魚》
「まだ少し時間あるし、もう少し屋台見て回ろうか」
スマホで現在の時間を確認し、そう提案しながらルミの手を取ろうとした。
「あ、あの先輩」
「ん、どした?」
「実は、私行きたい屋台があるんです!」
「ん?別にいいけど……かき氷?それともクレープ?あ、チョコバナナとか?」
「なんで全部食べ物な上に甘味なんですか!すごく魅力的ですけど違います!」
「ごめんごめん、ちょっとからかっただけ」
「むぅ……」
「それで、どこ行きたいの?」
「はい、実は……」
ルミに行きたい屋台を聞くと、歌恋は「いいよ」と言いながら、改めて手を取って人波に紛れて行った。
しばし人波に流されて進んで行くと、目的の場所で足を止める。
「ふわぁ……」
「おじさん、二人分ください」
ルミが来たかったのは金魚すくいだった。赤や黒、少し白が混ざったもの。大きいものや小さいものと、大きな水槽の中にたくさんの金魚が泳いでいた。
「はい、ルミ」
「あ、ありがとうございます」
「袖、濡れないようにしなよ」
「は、はい」
ルミは少しだけ袖をあげて、濡れないようになるべく手前の金魚を狙ってポイを構える。
「そ、そっと、そっと……」
よくテレビで見るよう。壁に金魚を追いやって、なるべく濡らさないように半分だけを水につけて赤い金魚をすくおうとした。
「あ」
だけど、金魚はそのままポイを破って再び水の中に。シュンと肩を落とすが、まだ濡れてない反対側を使って再びチャレンジする。
「あっ……うぅ……破れたぁ」
結局一匹もすくうことができずに終わってしまった。
「ルミ」
歌恋に声をかけられて、ルミは彼女の方を振り返る。歌恋が手にしていたポイも、ルミのもの同様、破けてしまっていた。
「先輩も……」
「はいよ、嬢ちゃん」
「ありがとうございます」
お店のおじさんが差し出すそれを、歌恋は笑顔で受け取った。その様子を目にして、ルミは驚いた。彼女が受け取った袋の中には、赤と白の和金と、黒の出目金が入っていた。
「え、先輩それ……」
「いやぁ……もうちょっとすえると思ったけど、二匹しかすくえなかった」
頬をかきながら照れ臭そうにする歌恋。そして、金魚の入った袋をルミの前まで近づけた。
「はい、ルミ」
「え」
「欲しかったんでしょ?あげるよ。うちは飼えないし」
「い、いいんですか?」
「うん」
「あ、ありがとうございます」
袋を受け取り、自分の顔の高さまで持っていくと、水の中を泳ぐ金魚たちの姿を嬉しそうにルミは見つめる。
「さて、そろそろ花火の場所取りしにいかないと」
花火開始まで残り十数分。すでに会場にきている人たちは、場所取りにいろんなところに足を運んでいた。
早くいかなければ、ゆっくりと見ることができなくなる。
「花火の場所を探してるのかい、嬢ちゃんたち」
渋い声の店主が腕を組みながら、ニヤリとする。
その様子に、歌恋もルミも、二人とも首を傾げた。




