10話《ガールズワールド》
「歌恋も来てたんだ」
「なんでこんな隅にいるの?」
髪型も服装もバラバラの、歌恋とした親しげな複数人の女の子たち。人波を抜け、歌恋に手を振りながらこちらへと近づいてくる。
「女子だけでお祭りって寂しくない?」
「失礼な。今日は男子と一緒に回ってたの」
「今近くの射的屋で張り合ってるんだけどね」
「ガキすぎ」
ケタケタと笑う彼女たちに歌恋は苦笑いを浮かべる。
彼女たちは歌恋と同い年のクラスメイトであり、元弓道部の部員である。
実力だけを言えば、彼女たちは歌恋よりも上だ。この中には個人で優勝した人もいる。正直、その子が部長になって欲しかったと歌恋は思った。
「わぁ、この子可愛い!」
その時、一人の女の子がルミの姿に気づいて声をあげて騒ぎ出した。
目が合い、ルミは手にしていたりんご飴で顔を隠しながら目をそらす。
女の子の興味は歌恋からルミに一瞬にして変わり、彼女を囲むようにして騒ぎ出す。
「ちっちゃーい」
「お人形さんみたい」
「可愛い」
人見知りが発動しているルミは、あたふたしながら涙目になり「あの」とか「えっと」などと小さな声でつぶやいていた。
取り囲んでいる方はルミのことなど御構い無しに騒ぎ立てる。人波の方はその騒ぎに興味を抱き、こっちを見ている人たちが数名いた。
「はいはい、そこまで」
ルミを背中に隠すようにして間に入った歌恋は、深々と溜息を零しながら彼女たちを見た。
「一気に話したら混乱するでしょ。後、あんまり騒がない。他の人たちが何事かってこっち見てるじゃない」
歌恋が人波の方を指さすと、わずかにギャラリーができてしまっていた。
女の子たちは慌てて「なんでもないです」や「喧嘩とかじゃないんで」と、ギャラリーをちらせていった。
「ごめん歌恋……」
「申し訳ない」
「誤ってくれればいいよ」
「それで、その子は?歌恋に妹がいたなんて聞いたことないけど……」
「この子はルミ。夕月先輩の妹さんだよ」
彼女たちは声を揃えて「え」と驚いた。紹介されたルミも、歌恋の背中にしがみ付きながら軽く会釈した。
「春宮先輩の妹さん?」
「ひゃー、可愛い」
「じゃあ先輩も来てるの?」
「いや、今日はバイト」
もちろん弓道部員であった彼女たちも夕月のことは知ってるし、彼と歌恋が仲が良かったのも知ってる。だから、彼女がルミと一緒にいても、特に気にした様子はなかった。
「ねぇ、歌恋も一緒に回らない?男子も弓道部メンツだしさ」
「ごめん。今日はルミとゆっくり回るから」
「そっか、それは残念」
「あ、男子探してるっぽい」
メンバーの一人がスマホの画面を見ながらそう言うと、彼女たちは「そろそろ行こうか」と言って、体を人波の方に向けた。
「じゃあね。次は一緒に遊ぼう」
「うん、お誘い待ってます」
彼女たちに手を振って、その姿が人波に消えて行くのを見届けると、重く濁った溜息をこぼした。
「ルミ、大丈夫?」
「は、はい……ちょっ、ちょっとびっくりして」
「ごめんね。根はいい子たちなんだ」
その時、ルミはぎゅっと、歌恋の服に深いシワを刻むように握り、顔を埋めた。
「……落ち着いたらまた回ろうか」
「……はい」
歌恋は優しくルミの頭を撫で、ルミは甘えるように歌恋に抱きついた。




