9話《たこ焼きとりんご飴》
「ふぅー……ふぅー……あーんむっ!はふっ!」
二人は人波から外れ、屋台と屋台の間の空間へと足を運んだ。そこで、タダでもらったたこやきを歌恋はもぐもぐと食べていた。
できたてで、軽く冷ましても噛んだ瞬間に熱々の中身が出てきて、口の中が火傷しそうになる。
「はぁー美味しい……ん?ルミ食べないの?」
隣にいるルミは、片手でじっとたこ焼きの入ったパックを持ったまま立ち尽くしていた。
「えっと、手が塞がって……」
逆の手には食べかけのりんご飴が握られており、どう頑張ってもたこ焼きを食べることはできなかった。
りんご飴を食べ終えればとも思ったが、まだかなりの量が残っており、食べきる頃にはもう花火が終わってしまっているかもしれない。
「ん……」
隣でパクパクと自分の分のたこ焼きを食べていた歌恋は、空を見上げる。住宅街で見たのと同じ、空はお祭りの光で黒紫に染まっていた。
わずかに雲が見え、淡く光る月が見え、星は一つとして見えなかった。
「んっ、はぁ……ごちそうさま。さてと」
自分の分のたこ焼きを食べ終えると、ゴミを袋の中に入れ、ルミが持っていた、彼女の分のたこ焼きを手にした。
「せ、先輩!?」
「はい、ルミ。あーん」
「え?」
パックに入っている八つのたこ焼きの一つを爪楊枝で刺すと、そのままルミの口元まで持っていく。
「これなら食べれるでしょ?」
「え、で、でも」
「んー、そんなこと言うなら、私がもらっちゃうよ?」
ニヤニヤと笑みを浮かべる歌恋の目は、どうするの?と問いかけているようだった。
あたふたしながら目を泳がせるルミ。わずかに唸り声をあげながら、彼女は口を開けてパクッとたこ焼きを食べた。
「あ、あふっ」
「勢いよく食べるからだよ」
一つ、また一つと、ルミのペースでたこ焼きを食べ進めていく。徐々に彼女の顔から恥ずかしさは消え、満足そうに笑みを浮かべる。
やがて、パックの中身は空になり、ルミは口直しにと、手にしていたりんご飴をペロペロ舐め始めた。
「美味しい?」
「はい。こういうところでしか食べられませんから」
その時、ルミは小さな声で「あ」と言葉を漏らし、手にしていたりんご飴を歌恋に差し出した。
「一口どうですか?」
「いいの?」
「はい。たこ焼き、食べさせてくれましたから」
さっきの光景を思い出し、ほんのり顔を赤く染め、目をそらしながらそう口にする。
可愛らしいその姿に、歌恋は笑みを浮かべ、「それじゃあ一口」と言いながら、飴を握るルミの手に触れ、彼女が舐めていた場所とは反対側を舐めあげるように食べた。
「んっ、美味しい」
「……せ、先輩……」
「んっ、どうした?」
「な、なんだかえっちです。今の……」
さっきよりも顔を真っ赤にするルミ。だけど、歌恋は彼女が言う「今の」がどのことを指しているのかわからず、慌てながらその理由を尋ねた。
「先輩、無意識であんなことするんですね……は、恥ずかしいです……」
「そ、そんなこと言われても……ねぇ、何がえっちなの?」
「言わないです!こんなところで……」
歌恋に背を向け、少しだけムッとしながらルミはりんご飴をペロペロと舐め始める。
「えー、ちょっとルミ怒らないでよぉ。機嫌なおして」
後ろからぎゅっと抱きしめながら、歌恋はルミに許しをこう。だけど、ルミの機嫌は全く治らなかった。
「あれ、歌恋?」
不意に、自分の名前を呼ばれて、歌恋は人波のある方に視線を向けた。
そこにいたのは、二人を見つめる複数人の女の子の姿だった。




