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夏の向日葵  作者: 暁紅桜
第4章_夏の花火
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8話《花火大会》

「りんご飴一つください」


 花火大会の会場は人で溢れており、薄暗い住宅街を抜ければ、すっかり別世界となってしまった。


「おっ、お嬢ちゃんたちべっぴんさんだね」

「そんなことないですよ」

「姉妹かい?」

「いえ、学校の先輩後輩です」

「そうなのかい。ずいぶん仲良しだから、てっきり姉妹かと思ったよ」


 ゲラゲラ笑うおじさんに歌恋かれんはにっこりと笑みを浮かべる。ルミは人見知りが発生しており、彼女の後ろにすがりつくように隠れていた。


「そうだ。お嬢ちゃんにこれをやろう」


 エプロンのポケットをガサゴソと漁ると、一枚の紙を取り出し、歌恋に渡した。


「たこ焼きの、無料券ですか?」

「息子の出店なんだ。もらったのはいいんだが、行けそうになくてな。使わないのも勿体無いし、お嬢ちゃんたちがよければ」

「いいんですか?」

「いいっていいって。息子によろしく伝えてくれ」


 お店の場所を聞くと、屋台のおじさんに二人でお礼を言って、人の波に流されながら進んでいく。

 ルミは繋いでる手とは逆の手でりんご飴を持ち、ぺろぺろと飴を舐める。


「ラッキーだったね。たこ焼き無料だって」

「お腹減りましたもんね」

「うん。けどたこ焼きだけでお腹たまるかなぁ……」


 甘い物もいいが、歌恋もルミも晩御飯を食べていないため、お腹が空いている。食べ物の屋台は数多く並んでいるが、目につくのは甘いものばかりだった。


「ここかな」


 教えてもらった場所にあるたこ焼き屋にたどり着くと、そこには若い男性の姿があった。大学生くらいで、頭に白いタオルを巻いている。


「いらっしゃい」

「あの、これ。向こうでお店出してるリンゴ飴のお店の人にもらったんですが」


 無料券を男性に渡すと、ちょっとだけ顔が歪んだ。歌恋は慌てて事情を話すと、男性は「全く親父のやつ」とため息交じりで呟いた。


「悪いな、うちの親父が」

「いえ、平気です」

「ん?」


 その時、男性の視線が歌恋から外れ、彼女の背中に向けられた。そこにいるのは、さっきと同じように、しがみつくように隠れる、ルミの姿だった。


「君……もしかして、夕月ゆづきの妹?」

「え、お兄さん、先輩の知り合いですか?」

「あぁ。同じ大学の友達だよ。ん?先輩って……もしかして君、歌恋ちゃん?」


 見知らぬ男性に名前を言い当てられ、歌恋は思わず声をあげて驚いてしまった。


「あはは、驚かせてごめんね。二人のことは、よく夕月から聞いてたからさ。だから」


 男性は、にっこりとした笑みを浮かべて、歌恋にビニール袋を差し出した。中には、たこ焼きが二パック入っていた。


「友達の後輩と妹なら、大サービスだ。二人分、ただにするよ」

「え、そんな悪いですって」

「気にすんな。その代わり、かしは夕月に払ってもらうから」


 腕を組み、歯を見せるような満面の笑み。彼の顔とたこ焼きを見比べ、歌恋は深々と頭を下げる。


「ありがとうございます」


 それを見たルミも、慌てて歌恋の隣に立って頭を下げる。


「あ、ありがとう、ございます」

「いいって。熱いから気をつけて食べろよ」


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