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夏の向日葵  作者: 暁紅桜
第4章_夏の花火
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5話《問題集》

「んー……とぉ」


 数日後、歌恋かれんは近くの本屋に参考書を買いに来ていた。いまだに何をやりたいのかというのは決まっていないが、とりあえず夕月ゆづきと同じ大学に行くというのはずっと前から自分の中で決めていたため、過去問の問題集や、自分の苦手教科の問題集を買いにきていた。


「あっ、これだ」


 どれを買っていいのかわからず、昨晩夕月に相談したところ、いくつかオススメの問題集を教えてくれた。


神薙かんなぎさん」


 すると、不意に軽く肩を叩かれ、歌恋は慌てて振り返った。そこには、にっこりと笑みを浮かべる椎葉しいばの姿があった。


「椎葉」

「問題集買いに来たの?」

「うん。椎葉は?」

「僕も似たようなものだよ。通常教科の問題集」


 椎葉の腕の中には、歌恋が持っている問題集とは違うものが抱かれていた。

 美大向けの問題集だろうかと、少し興味を抱きながら、前のめりで本を見つめる。


「今日は一人なんだね」

「えっ?あぁうん。そうだけど……」

「最近、春宮はるみやさんと一緒だから今日も一緒だと思ったよ」


 少し照れ臭そうにしながら、頬をかく椎葉。そんな彼の様子を、歌恋はじっと見つめた。


「えっと、どうかした?」

「ねぇ、椎葉。聞きたいことがあるんだけど」

「ん?何かな?」

「えっとね……」

「よっ、歌恋」


 またしても肩を軽く肩を叩かれて振り返ると、片側の頬が相手の指につっつかれた。悪戯が成功したのが嬉しいのか、挨拶してきた夕月の表情は、どこか無邪気な少年のようだった。


「先輩」

「こんにちは」

「いらっしゃい」

「今日はここだったんですね」


 ニコニコと営業スマイルを浮かべる夕月はコクコクと頷く。

 夕月はここに以外にもいくつかバイトを掛け持ちしている。歌恋が知ってるのはここと、女性に人気のカフェの店員。後は親戚が経営してるという花屋の三つ。


「大変だな受験生」

「先輩に勧められた本、とりあえず買ってる感じですけどね」

「椎葉は美大だったよな。俺はそっちは分からないから、手伝えなくて申し訳ない」

「……よく、僕が美大に行くって知ってますね」

「ルミが話してるからな。それに、この前の撮影会で顔を見た時思い出した。一年で絵がスゲェー上手い奴がいるって」

「いえ、そんなことは」


 少し照れ臭そうに、だけどどこか嬉しそうな表情を浮かべる椎葉。仲良さげにしている二人の様子を見て、歌恋は思わず笑みを浮かべる。


「あ、そうだ歌恋。花火大会の日、俺バイトなんだわ。家に誰もいないから、見終わったら俺が帰るまでいてくれないか?」

「構いませんよ。ここですか?」

「いや、おばさんの店。おじさんがぎっくり腰らしくてな」

「わかりました、任せてください」

「春宮くーん、ちょっといいかな」


 遠く、同僚の呼ぶ声が聞こえ、その場にいる三人は思わずそちらに目線を向けてしまった。


「はーい。じゃあ、ゆっくりしていけよ」


 夕月は軽く手を振り、そのまま仕事に戻っていった。


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