4話《お誘い》
買い物を済ませ、照りつける熱気を浴びながら無事に家に帰った歌恋。部屋に戻り、エアコンをつけるとそのままベットにダイブし、涼しい風を堪能していた。
ウトウトと眠気に襲われかけるが、先ほど店の掲示板で見かけた花火大会のチラシのことを思い出し、忘れないうちにとルミに電話をかけた。
「そう。興味あるかな?」
『はい! りんご飴とかわたあめ……金魚すくいとかも興味あります!』
「そっか。ただ、かなり人混みが多いんだよね」
例のストーカーが送って来た写真。人混みの中にもかかわらず、綺麗に撮られたルミの写真。
人が少なくても危ないが、多くてもどこで写真を撮られているかわからくて危険。本当なら誘うべきではない。だけど、歌恋はルミと花火大会に行きたかった。
『先輩が、何を言いたいのかわかってます。正直、怖いです……元々人が多いところが苦手というのもありますが、写真の事もあって、余計に……』
「無理はしないでいいから。行きたくないならそれでいいよ」
ルミが怖い思いをするぐらいなら行かなくてもいい。その時は、別の案を出す。二人で花火が見られれば、それでいいのだから。
『先輩』
「ん?」
『行きたいです』
「いいの?」
『はい。怖がって外に出ないくらいなら、気にせず、先輩と楽しみたいです』
ぎゅっと、歌恋の胸が苦しくなる。たったそれだけの言葉。純粋な言葉がとても嬉しくて、自分と花火大会を楽しみたい。嬉しくて嬉しくて、自然と頬が緩んでしまう。今、ルミはどんな顔をしてるんだろう。天井を見上げながら、ぼーっと頭の中で想像する。
『先輩?』
「あぁごめん。じゃあ決定だね。先輩にもちゃんと言っておくんだよ」
『はいっ!楽しみです』
「うん、じゃーね」
『はい、また』
通話を切った瞬間、ベットに倒れ込み、歌恋は枕を抱きしめてゴロゴロと転げ回る。
幸福感に胸が満たされて、ドキドキと激しく心音がなる。
同性同士のただのお出かけ。本当の姉のような人とのお出かけ。きっと、ルミはそう思ってるかもしれない。
だけど、歌恋は違う。行きたい。自分と楽しみたい。誰でもいいのではなく、歌恋と花火大会に行きたいと、そう言ってくれた。それが、どれだけ嬉しいことか。
「楽しみだなぁ……」
「かれーん。ご飯できたわよぉ〜」
母の呼ぶ声が聞こえ、歌恋は慌ててリビングへと向かった。
買い物をした歌恋は、今夜の晩御飯は肉じゃがだろうと予想していた。だけど、実際にテーブルに並べられていたのは、カレーライスであった。糸こんにゃくは、一緒に出されたきんぴらの材料だったようだった。




