1話《手紙とケーキ》
八月半ば。お盆の時期が近づき、部活動も停止になり、生徒の学校への出入りが強制的に禁止された。それにより、ルミが学校へ行くことがなくなり、歌恋は家でのんびりとくつろいでいた。
積んでいる小説をベットの上で読みながら、ダラダラと一日を過ごす。
時刻は十三時頃。お昼を食べ終えて、読んでる途中の小説を手にした時だった。夕月からメッセージが届き、内容は【急いで来てくれ】とだけ書かれていた。スタンプで「どうかしましたか?」と送ると、文面で【とりあえず来い】と急かされた。
歌恋はよくわからないまま、リビングにいる母に一声かけて、足はやに春宮家へと足を運んだ。
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インターホンを鳴らし、歌恋は家主が出てくるのを待った。内心、暑いから早く出て来て欲しいと、扉を見つめながら「早く出て来い早く出て来い」と心の中で何度もつぶやく。
「おぉ来たか」
ガチャリと玄関の扉が開くと、出迎えてくれたのは夕月だった。
「こんにちは。あ、途中でケーキ買った来たので」
「あぁ悪いな……じゃなくて!そんな呑気なことじゃないんだよ」
「とは言われましても……内容をよくわかってないのですから」
「いいから中に入れ」
一瞬辺りをキョロキョロして、夕月は歌恋の腕を引っ張って家の中に引き入れた。
「なんか今の、側から見たら無理やり連れ込んでるみたいですよねぇー」
「そういうこといいから。こっちこい」
急かすように、夕月は先にリビングへと入っていった。歌恋も小さな声で「お邪魔します」と口にして、後に続いてリビングに入った。だけど、思わず入口で止まってしまった。
部屋の隅で枕を抱いて震えるルミ。そして、テーブルいっぱいに置かれた大量の写真。それを見た瞬間に歌恋は色々察し、自分の呑気さに怒りがこみ上げて来る。
「また来たんですか?」
「あぁ、素敵な文章も一緒にな」
手にしていたケーキの箱と交換で、歌恋は夕月から手紙を受け取った。
《やぁ、僕の愛しい子。学校が出入り禁止になってからは、君はあまり外に出てないみたいだね。おかげで、君を肉眼で見ることができなくなって残念だよ。今ただ、写真の君を見つめるだけ、録音した君の声を聴くだけ。早く、君を見て、君の声が聴きたいよ。
あぁそうだ。この前新しいカメラを買ったんだ。前の写真よりも綺麗に撮れてるだろう?いっそう君を綺麗に撮ることができて嬉しいよ。だけど、写真じゃ満足できない……早く、君を僕のものにしたい。君の笑顔も、恥ずかしそうな顔も、怒った顔も、全部、僕のものにしたいよ
君を愛する赤バラより》
読んだ途端に感じる吐き気。恐怖と気持ちの悪さ、そして怒り。歌恋は思わず手紙をビリビリに破いてゴミ箱に捨てた。
「おいっ!」
「こんな手紙、残しちゃダメですよ」
そのままテーブルの上に広げられた写真を片付け、何事もなかったかのようにその場に座った。
「先輩、ケーキ食べましょう」
「え、お、おう……」
「ルミ、こっちおいで」
部屋の隅にいるルミに声をかけるが、彼女は首を振りながら、びくびくと震える。「大丈夫だよ」と声をかけても、ルミは動こうとしなかった。
歌恋は、そっと彼女に近づき、枕を抱きしめている手にそっと触れた。
「前にルミが食べたいって言ってたケーキ買って来たよ。大丈夫。甘いケーキ食べれば気持ちも落ち着くし、何より今は、私や先輩もいる。だから、ね」
落ち着かせるように、ルミの手の甲を何度も撫でてあげる。すると、こわばっていた体からゆっくりと力が抜けていき、やがて、抱きしめていた枕がぼとりと床に落ちた。その下から、ぐずぐずになったルミの泣き顔が出て来て、歌恋はゆっくりと彼女を抱き寄せて、頭を撫でてあげた。
「ケーキ、食べようか」
「……はい」




