12話《間接》
「学校の近くにこんなお店があったなんて……」
上下からの熱を体に浴びながら、やっとの思いでたどり着いた店内は、ひんやりと涼しく、流れるBGMに心が癒される。
出されたお冷を口に運びながら、お昼のメニューを楽しく選び、運ばれてきた料理にまた会話が盛り上がる。
「ね。雰囲気もあるし……まぁ客層は結構高いみたいだけどね」
歌恋やルミ以外に学生の姿はなく、二十代後半以上のお客さんばかりがいた。
不快に思われないようにと、会話もなるべく静かに行おうと二人は心の中で思った。
「そういえば、ルミもだいぶ椎葉に慣れてきたね」
「そ、そうですか?」
「うん。少しあたふたしてるけど、それでも前よりは全然」
「……先輩の、おかげです」
恥ずかしそうに、カップの中を見ながら。だけどその表情の中に、どこか嬉しさも混じっていた。
「先輩と一緒にいると、自然と……あ、大丈夫なんだって思えるんです。そしたら、ぎこちなくても、お話ができます」
ゆっくりと顔が上がり、ルミの浮かべた表情に、歌恋は大きく目を見開いた。
「ありがとうございます、歌恋先輩」
外に比べて、店内はエアコンが入っていてとても涼しい。そのはずなのに、歌恋の体温は上がっていき、額からわずかに汗がにじみ出る。
歌恋はまた胸に苦しさを感じた。体に感じる甘く痺れるような感覚。早く答えを出して楽になりたい、そう思いたくなるほどに、幸福感を感じた。
「……ルミは、可愛いね」
「え……またからかってるんですか?」
「ううん。そんなことないよ」
「お待たせしました」
食後のデザートが運ばれきて、歌恋の前にイチゴパフェが。ルミの前にラズベリーソースのかかったチーズケーキが置かれた。
「ルミ、あーん」
「え、いいんですか?」
「うん。ほら、垂れちゃうよ」
少しだけ戸惑いながら、ルミは口を開き、わずかに舌を出す。その様子をじっと見つめながら、歌恋は頭の中で「あぁ、迎え舌なんだな」と小さく呟いた。
「美味しい?」
「ん……はい。先輩も一口どうですか?」
「ごめん。私チーズケーキ苦手なんだ」
「そうなんですか?ちょっと意外です」
歌恋もパフェを一口食べようと、スプーンですくって口に運ぶ。満足そうに笑みを浮かべるが、ふと、先ほどの行動を思い出し、ほんのり頬を染める。
ちらりと、向かいの席に座るルミの様子を伺う。頬に触れながら、とても幸せそうにケーキを食べるルミ。その表情を見て、歌恋は思わず笑みをこぼしてしまった。
店内に流れるBGM。外の熱気を知らせる蝉の鳴き声。そんな不思議なアンサンブルを聞きながら、溶けかけのパフェを口に運んでいった。




