11話《鍵》
「えぇー、私も行きたかったです……」
「じゃあお昼はそこ行こうか。学校の近くだし」
時刻は刻々と過ぎて行き、そろそろお昼の時間になり始めていた。
どこに行こうかと考えていたときに、昨日のカフェのことを歌恋が思い出し、ルミに話すと行きたいと答えてくれ、じゃあお昼はそこに行こうと決定した。
「お話中ごめんね」
大きな美術室のさらに奥の部屋。そこの扉が急に開いて、中から椎葉が姿を現した。
「あれ、椎葉いたんだ」
「うん。だから、申し訳ないけど、結構会話内容聞こえてたんだ」
「うっわ、恥ずかしい……」
過去の内容を思い出して、顔を覆いたくなるほどの羞恥心に襲われ、歌恋は俯いてしまった。
「今からお昼?」
「あ、はい……」
「じゃあ鍵閉めないとだね」
「先輩も、お、お昼ですか?」
「うん。水崎先生のところ」
どういうことだろうとルミが首をかしげると、隣で俯いたままの歌恋が軽く説明してくれた。
水崎と椎葉は昔からの知り合いだった。彼の祖父と水崎が古い友人らしく、幼い頃から関わりがあった。
椎葉はおじいちゃんっ子で、幼い頃は祖父にべったりだった為、水崎が訪ねにきた時も、いつも祖父にくっついていた。話の輪にも入っていたし、二人が将棋をしているときに混ざったりもしたことがあった。
そういった事もあり、椎葉はよく水崎のところでお昼を食べながら将棋をしている。この事は、同学年と一部の先輩後輩が知っている。
「結構妬んでいる生徒も多いいんだけど、私はそれ以上に、椎葉に将棋の才能もあったことに妬ましさを感じる」
さっきの恥ずかしさは何処へやら。歌恋は椎葉を呪うかのように睨みつけた。
「才能なんてないよ。やり方覚えれば、誰だってできるし」
「やるなら相手はお父さんだなぁ」
「私もです。兄さんは絶対にやらなそう」
「興味があったら二人もきたらいいよ。水崎先生も喜ぶし」
その後、三人は一緒に教室を出て行き、職員室前で別れた。
「あ、春宮さん」
「え、あ、はい」
「鍵なんだけど、戻る前に一回職員室によってもらってもいいかな。もしかしたら僕の方が遅いかもだし」
「わ、わかりました」
「僕も一度寄るから」
「ルミー」
遠く、昇降口の前で歌恋がルミを呼ぶ。ルミはアワアワしながら歌恋と椎葉を交互に見た。
それを見た椎葉はくすりと笑って軽く頷いた。
「よろしく頼むね」
一言そういうと、椎葉はその場を後にする。その後ろ姿をしばし見つめ、ルミは歌恋の元に駆け寄った。




