3話《夏の特別バイト》
ルミはストーカー被害にあっているらしい。
始まりは恐らくGWを開けた頃だろうと夕月は言った。誰かに後を付けられていたり、見られていることには気付いていたらしい。そして、六月の終わり頃に、ストーカーが手紙と写真を送ってきた。
《いつも君を見てるよ》
写真は、学校にいるルミの様子や、下校中のルミの姿、休日を過ごす彼女の写真が二十枚以上あった。
怖くなったルミは、すぐに兄である夕月に相談した。本当なら警察に事情を説明するべきなんだろが、大事にしたくないとルミが口にし、今までは両親が送り迎えをしていたが、夏休みの間は仕事の都合で海外に行っており、夕月も大学があるため、ルミを守ることができない。
「だからって、なんで私なんですか?」
「異性を護衛につけるとストーカーを刺激するだろ?それだけじゃなくて、こいつ自身が異性苦手だからな。同性で、なおかつ俺が信頼できるやつって言ったらお前しかいないからな」
そんなことを言われて、夕月に想いを寄せている歌恋がドキッとしないわけがなかった。
赤い顔を隠すように、歌恋はそのまま顔をそらして小さく唸る。
「頼む歌恋。お前しか頼れないんだ!」
「いや、その……い、妹さんは納得してるんですか?」
一度夕月に目を向けた後、歌恋はさっきからだんまり状態のルミに視線を向ける。彼女は一瞬だけ歌恋のことを見た後、サッと目をそらしてしまった。
「あぁ。もちろんだ。まぁ、人見知りだから、まずは何とかして打ち解けてくれ」
「何とかって……はぁ……一日いくらですか?」
「報酬は、俺がお前の勉強を見るってことで」
「それバイトの報酬じゃないです」
「まぁまぁ、それで頼むよ」
歌恋は、夕月からの頼みごとに弱い。だから、結局承諾してしまう。
もう少し詳しい内容を聞くと、ルミが部活に行くとき、送り迎えをする。補修があってもなくても、なるべく彼女と一緒にいてほしいと。
「わかりました。……よろしく、春宮さん」
彼女の方を見て挨拶をすれば、タジタジではあったが頷いてくれた。
「何で苗字なんだよ」
「いきなり心の扉をこじ開けるなんてできませんよ。ゆっくりと、一個ずつ開けないと。私は、先輩と違ってフレンドリーじゃないので」
「何にげに俺、今ディスられてる?」
不服そうな顔を浮かべる夕月の顔を一瞬見た後、歌恋は俯き、笑みを浮かべる。
ちょっと不思議なバイトを受けることになったが、想い人と一緒に夏を過ごせるのはすごく嬉しかった。
高校最後の夏。何かが起こりそうな予感が、歌恋の中にあった。