7話《沈黙に響くBGM》
「んー、ここのご飯おいしぃ」
「気に入ってもらえて良かったです」
慎也が進めた店は、とても落ち着いた雰囲気のある、古めかしいレトロなつくりをしたお店だった。店内にはとても深みのあるコーヒーの匂いが漂っており、深く息を吸い込んで香りを堪能すると、何だかとても心が満たされる。
食事のメニューやドリンクのメニューは充実しており、コーヒーのページには小さく、その飲み物と合う食事のメニューが書かれていた。
「このオムライス、ソースがすごく美味しい。濃厚っていうか、とにかく美味しい」
「ふふっ。先輩に喜んでもらえたのなら嬉しいです」
「気に入ったよ。今度ルミと来ようかな」
あっという間に昼食を食べ終え、お腹と幸福感に満たされて、歌恋は食後のコーヒーを一口飲む。
「はぁ……ここは落ち着くね。嫌なことが、全部消えていくよ」
「……神薙先輩」
「ん?」
「先輩は、春宮先輩のことが好きなんですか」
先ほどまで全く聞こえなかった店内のBGMが、耳にはっきりと聞こえる。互いに黙り込み、歌恋はじっと黒い水面に映る自分の姿を見つめる。
「どうして?」
「見てればわかりますよ。お二人が並ぶと、空間が少し赤くなる感じがします」
「何だか詩的だね」
「告白、されないんですか?」
その質問は、あまり正しいものではなかった。
慎也は分かっていた。彼女が、彼に気持ちを伝えたことを。
たとえ直接的なことを聞いていなくても、彼女の表情を見ているだけで、その事実はわかってしまう。
「したよ。でも、ふられた」
「そう……ですか。でも、そんなに簡単には諦められないですよね」
「うん……まだ、熱は冷めないよ」
そっと自分の胸に手を当て、先ほどの道場でのことを思い出す。彼に触れられた場所が、今でも熱を帯びていた。それを感じると、胸がドキドキと鼓動をうち、わずかに顔を歪ませたいほどに苦しさを感じる。
「なのにどうして、側にいるんですか? 気まづいとか、そういうことはないんですか?」
「私は、あの人の近くにいる理由があるの。それは、気持ちを伝える前に決まっていたことだから」
歌恋は慎也に言った。伝えるつもりなんて微塵もなかったと。ただ側にいるだけで、彼に頼られるだけで満足だった。だけど、長く側にいるとどんどん幸福感に満ち始め、その感情は言葉として口から出てしまう。それが、彼に気持ちを伝えるきっかけとなってしまったと。
「恋愛って怖いよね」
「……先輩」
「ん? どうした?」
「好きです」




