表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
夏の向日葵  作者: 暁紅桜
第3章_夏の恋
27/80

7話《沈黙に響くBGM》

「んー、ここのご飯おいしぃ」

「気に入ってもらえて良かったです」


 慎也しんやが進めた店は、とても落ち着いた雰囲気のある、古めかしいレトロなつくりをしたお店だった。店内にはとても深みのあるコーヒーの匂いが漂っており、深く息を吸い込んで香りを堪能すると、何だかとても心が満たされる。

 食事のメニューやドリンクのメニューは充実しており、コーヒーのページには小さく、その飲み物と合う食事のメニューが書かれていた。


「このオムライス、ソースがすごく美味しい。濃厚っていうか、とにかく美味しい」

「ふふっ。先輩に喜んでもらえたのなら嬉しいです」

「気に入ったよ。今度ルミと来ようかな」


 あっという間に昼食を食べ終え、お腹と幸福感に満たされて、歌恋かれんは食後のコーヒーを一口飲む。


「はぁ……ここは落ち着くね。嫌なことが、全部消えていくよ」

「……神薙かんなぎ先輩」

「ん?」

「先輩は、春宮はるみや先輩のことが好きなんですか」


 先ほどまで全く聞こえなかった店内のBGMが、耳にはっきりと聞こえる。互いに黙り込み、歌恋はじっと黒い水面に映る自分の姿を見つめる。


「どうして?」

「見てればわかりますよ。お二人が並ぶと、空間が少し赤くなる感じがします」

「何だか詩的だね」

「告白、されないんですか?」


 その質問は、あまり正しいものではなかった。

 慎也は分かっていた。彼女が、彼に気持ちを伝えたことを。

 たとえ直接的なことを聞いていなくても、彼女の表情を見ているだけで、その事実はわかってしまう。


「したよ。でも、ふられた」

「そう……ですか。でも、そんなに簡単には諦められないですよね」

「うん……まだ、熱は冷めないよ」


 そっと自分の胸に手を当て、先ほどの道場でのことを思い出す。彼に触れられた場所が、今でも熱を帯びていた。それを感じると、胸がドキドキと鼓動をうち、わずかに顔を歪ませたいほどに苦しさを感じる。


「なのにどうして、側にいるんですか? 気まづいとか、そういうことはないんですか?」

「私は、あの人の近くにいる理由があるの。それは、気持ちを伝える前に決まっていたことだから」


 歌恋は慎也に言った。伝えるつもりなんて微塵もなかったと。ただ側にいるだけで、彼に頼られるだけで満足だった。だけど、長く側にいるとどんどん幸福感に満ち始め、その感情は言葉として口から出てしまう。それが、彼に気持ちを伝えるきっかけとなってしまったと。


「恋愛って怖いよね」

「……先輩」

「ん? どうした?」

「好きです」


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ