5話《お昼のお誘い》
「はぁ……疲れた」
最後の矢に全神経を持っていかれたような感覚がし、歌恋は体に脱力感を感じた。
「先輩」
外で撮影していたルミが歌恋の側に駆け寄ってくる。それはまるで忠犬のように。
目をらんらんに輝かせているが、額からは汗が滴り落ちてきていた。歌恋は汚れていない綺麗なハンカチを取り出し、彼女の汗を拭ってあげた。
「先輩、最後!すっごくカッコ良かったです」
「わかったから。ちょっと大人しくて。汗ふけない」
「あはは、大興奮だなルミ」
「いやぁ、あれは今までで、一番じゃった。良いものじゃったよ」
「先生までからかわないでください」
「神薙さん」
こちらに近づいてきた椎葉はにっこりと笑みを浮かべてカメラを掲げる。なんだかとても満足そうな表情だった。
「いいものが撮れたよ」
「それは何より」
「また機会があったら撮らせてね。それじゃあ僕はこれで」
「もう帰るの」
「うん。コンテストの絵もそうだけど、ほかに描きたいものがあるんだ」
歌恋はどんな絵かを聞こうとしたが、それよりも先に椎葉は手を振り、その場を後にした。
「戸締りはわしがしとくから、四人は気をつけて帰るんじゃぞ」
「歌恋先輩、帰ったら写真見せますね」
「えぇ、恥ずかしいよ」
「残念だが、今日は俺と二人で帰るぞルミ」
夕月に背中を押されて、二人はどんどん先へと行く。ルミはジタバタしながら「どうして!」と叫んでおり、歌恋はただ呆然としていた。
「いいから帰るぞぉー」
「嫌だ!先輩—!」
夕月に引きづられながら帰って行くルミ。よくわからないが、とりあえず歌恋は軽く手を振った。
「か、神薙先輩!」
その場に残ったのは歌恋と慎也だけ。名前を呼ばれて振り返えれば、彼はどこかそわそわした様子だった。
「もしお時間があれば、食事でもどうですか?」
「え?あぁうん、いいよ」
「ホントですか?」
パッと慎也の表情が明るくなり、駆け足で歌恋の前までやってくる。その様子に、歌恋は思わず笑ってしまった。
「前断ったからね。今日は全然いいよ。二人とも帰っちゃったし」
「じゃ、じゃあオススメのカフェがあるんです。そこ行きませんか?」
「うん、いいよ」




