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夏の向日葵  作者: 暁紅桜
第3章_夏の恋
23/80

3話《二年ぶりの景色》

「はぁ」


 辺りに弦音が響く。

 だが、矢は的ではなくてその枠を外れて安土に突き刺さる。二射目も、三射目も同じだった。


「力んでるか?」


 後ろで見ていた夕月ゆづきが声をかける。

 歌恋かれんは少し気恥ずかしそうに口元を尖らせながら頷く。引くのは本当に久しぶりだし、ルミにいいところを見せないと思うと自然と体に力が入る。


「お前、綺麗な射形してるんだから、もう少し落ち着け」

「綺麗でも、当たらないと恥ずかしいですよ」

「春宮君、引いてみなさい。神薙さんは後ろで。久々に彼の様子を見程なさい」

「……はい」


 歌恋は後ろに下がり、入れ違いで夕月が射位に着く。



 二年ぶりに見る姿。

 二年ぶりに立つ場所。

 二年ぶりに見る美しい射形。

 二年ぶりに感じる腕の軋み。




スパンッ!


 心を震わせる、美しい弦音が響き、的の真ん中に矢が刺さった。二射目も三射目も同様だった。


「衰えておらんのう」

「体が覚えているだけですよ」


 歌恋と夕月と目線が交じり合い、彼は笑みを浮かべ、歌恋もまた笑顔を浮かべる。だが、彼のとは違い歌恋の浮かべたそれは、ただただ苦しさを隠すための笑顔だった。

 彼の姿を二年ぶりに見た瞬間に歌恋は改めて思い知らせた。自分は何にも恵まれていない。外がどんなに美しくても意味はない。やっぱり自分は、夕月とはあまりにも違いすぎると。


「もう何本かいいですか?」

「良いぞ良いぞ」


 久しぶりで楽しいのか、無邪気な表情を浮かべる夕月。

 歌恋はじっとその姿を見つめる。その姿を見るたびに、どんどん胸が苦しくなってくる。

 水族館で感じた胸の苦しみとは違い、今にも涙が溢れ出してきそうな苦しみを感じていた。


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