3話《二年ぶりの景色》
「はぁ」
辺りに弦音が響く。
だが、矢は的ではなくてその枠を外れて安土に突き刺さる。二射目も、三射目も同じだった。
「力んでるか?」
後ろで見ていた夕月が声をかける。
歌恋は少し気恥ずかしそうに口元を尖らせながら頷く。引くのは本当に久しぶりだし、ルミにいいところを見せないと思うと自然と体に力が入る。
「お前、綺麗な射形してるんだから、もう少し落ち着け」
「綺麗でも、当たらないと恥ずかしいですよ」
「春宮君、引いてみなさい。神薙さんは後ろで。久々に彼の様子を見程なさい」
「……はい」
歌恋は後ろに下がり、入れ違いで夕月が射位に着く。
二年ぶりに見る姿。
二年ぶりに立つ場所。
二年ぶりに見る美しい射形。
二年ぶりに感じる腕の軋み。
スパンッ!
心を震わせる、美しい弦音が響き、的の真ん中に矢が刺さった。二射目も三射目も同様だった。
「衰えておらんのう」
「体が覚えているだけですよ」
歌恋と夕月と目線が交じり合い、彼は笑みを浮かべ、歌恋もまた笑顔を浮かべる。だが、彼のとは違い歌恋の浮かべたそれは、ただただ苦しさを隠すための笑顔だった。
彼の姿を二年ぶりに見た瞬間に歌恋は改めて思い知らせた。自分は何にも恵まれていない。外がどんなに美しくても意味はない。やっぱり自分は、夕月とはあまりにも違いすぎると。
「もう何本かいいですか?」
「良いぞ良いぞ」
久しぶりで楽しいのか、無邪気な表情を浮かべる夕月。
歌恋はじっとその姿を見つめる。その姿を見るたびに、どんどん胸が苦しくなってくる。
水族館で感じた胸の苦しみとは違い、今にも涙が溢れ出してきそうな苦しみを感じていた。




