1話《冷めない熱》
「おーい、歌恋」
翌日は晴天。雲一つない青空が広がり、夏の日差しが照りつける。
「あ、どうも先輩、ルミ」
先に来て顧問の水崎と現部長の慎也と話をしていた歌恋は、弓道場へとやって来たルミと夕月、椎葉の方を向いた。
「なんか顔色悪くね?」
「大丈夫ですか?」
「あぁ、うん……今朝、母さんが張り切って晩御飯のメニュー考えてたんだけど、すごい量になりそうでぐったりしてるんです」
昨日の自分の発言を後悔して、歌恋はいまにも泣き出しそうな顔をしていた。
そんな彼女の様子に、春宮兄妹は両肩を叩いて「ドンマイ」と重く、深いトーンで口にした。
「椎葉もありがとね」
「こちらこそ、誘ってくれてありがとう」
「おぉー春宮くん。久しぶりじゃのぉ」
「水嶋先生、お久しぶりです」
歌恋の横をすり抜け、夕月はそのまま水嶋のもとにゆき、シワシワの手を強く握った。
「お元気そうで何よりです」
「春宮くんも元気そうじゃのう」
ニコニコしている夕月の様子を見て、ルミと歌恋はこそこそと会話をする。
「兄さんホント外面いいですね」
「いやまぁ、言いたいことはわかるよルミさんやい」
「神薙先輩」
その時、水嶋の後ろにいた慎也が声をかけてきた。歌恋は顔を上げて彼の方を向くが、ルミは反射的に彼女の後ろに隠れてしまった。
「あ、すみません」
「あぁ気にしないで。ルミ、私の次に部長になった高崎だよ」
ゆっくりと歌恋の背中から顔を出すと、ぺこりと頭を下げ、再び隠れた。
「ご覧の通り、人見知りなの。後、異性も苦手で」
「そうなんですね。でも、先輩の弓を引いてる姿を描きたいなんて、見込みがありますね」
「なんの見込みなの?あ、そうだ。先輩も引きませんか?」
水嶋と話をする夕月に歌恋は声をかけた。袴は控えの分が何着かあり、彼の体格にあったものも少なからずある。
「あぁでも、俺高校卒業してやめたしな」
「大丈夫です。ね、先生いいですよね」
「わしは構わんよ。久しぶりに春宮君の射を見たいしのう」
「私も、見たいです」
「参ったなぁ……まぁ水嶋先生がそういうのなら」
「えぇ、私はぁ?」
「はいはい、ありがとな」
数度頭をポンポンと叩き、夕月は歌恋の横をすり抜けてルミのそばに行った。
触れられた頭に手を伸ばし、歌恋はうつむきながらつぶやいた。
「ホント、ずるいな……」




