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夏の向日葵  作者: 暁紅桜
第1章_夏のバイト
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2話《片思いの相手》

「いらっしゃいませ」


 学校を出て十数分。街の中にあるファーストフード店に足を運んだ歌恋は、とりあえずお昼ご飯として適当に何か注文をした後、商品を手にしながら店内をキョロキョロする。


「あ、歌恋かれん! こっちこっち!」


 店の奥、私服姿の男性が歌恋に手を振って呼んでいた。ドキッと胸が高鳴って、少しだけ顔を赤くしながら歌恋は駆け寄った。


「すみません先輩お待たせして……」


 だけど、そんな高鳴った気持ちは一瞬にして落ちていった。

 彼の隣に、小柄な女の子がいた。歌恋と同じ制服の女子生徒。誰?と内心思いながら、歌恋はじっと彼女を見ていた。


「まぁまぁ座れ。あぁ、先に飯食っていいぞ。腹減っただろう」

「え、あぁはい。じゃあ失礼して」


 誰だろうと思いながら、歌恋はその女子生徒を見ながら食事をする。彼女は時々顔を上げて歌恋のことを見るが、小さく悲鳴あげて、男性にすり寄って俯く。

 彼女だろうか……そんなことを思いながら、ものの数分で商品をたえらげた。


「いやぁ、相変わらずいい食べっぷりだな」

「女性の食事しているところをじっと見るのは、どうかと思いますけど」

「ふぅーん。がさつで、男の着替えを見ても動じないやつが、女性ねぇー。口も悪いくせに」

「うっさいです。それで、要件はなんですか」


 チラッと女子生徒の姿を見た後、視線を彼に向ける。

 慎也からのお昼のお誘いを断ってここにきたのは、彼からメールが来たからだ。

 春宮夕月はるみやゆづき。歌恋が高校一年の時、弓道部の部長をしていた、二つ上の先輩。今は大学二年生だ。

 そして、歌恋の想い人だ。

 惚れたきっかけは、本当に些細なことだった。弓を引く姿がとても綺麗だったからだ。それからは、ずっと先輩のこと見てきた。そして、頑張って話しかけて、頑張って女子部員で一番仲がいいというところまで上りつめた。だけど、結局夕月が卒業するまでに告白はできず、当然今も告白はできてない。けど、こうやって呼ばれるのは嬉しかった。都合のいい人間と思われても良かった。それで、少しでも夕月の側に居られるならと、歌恋は満足していた。

 だけど今隣に、彼女かもしれない子がいる。もし本当に彼女だったならば、歌恋はもう夕月を好きでいることを諦めようと思った。

 早く、早く彼女を紹介してほしい。それでやっと自分は、諦めがつく。自分の心臓の音が大きく、速度が上がっていくのを感じながら、歌恋は夕月の言葉を待った。


「まずはこいつを紹介するな。こいつは俺の……」


 ゴクリと唾を飲み込み、強く目を瞑った。耳を塞ごうと、無意識に手が挙がるが、それをなんとか抑え込む。




「妹だ」




 しばしの間、強く閉じていた目は、いつの間にか開いており、口もぽかんと空いてしまっていた。


「へ?」


 そんなすっとんきょうな声も、無意識に出てしまっていた。


「なんだその間抜けな顔は。なんだと思ってたんだよ」

「いや……か、彼女かと……」

「俺にロリの趣味はな、って! 何すんだよルミ!」

「兄さんが、気にしてること言うから」


 ここに来て、一度として開かれなかった彼女の口が開き、そこから紡ぎ出された声は、なんとも綺麗で心地いいものだった。思わず聞き惚れてしまうほどに。


「改めて、俺の妹の春宮はるみやルミ。お前と同じ学校の一年Bクラスで、美術部員だ」

「……(コクリッ)」

「あ。あぁ初めまして」


 頭を下げて挨拶してくるルミにつられて、思わず歌恋も頭を下げて挨拶をした。


「それでなんだが……お前、夏休みは予定とかあるか?」

「補修がありますけど」

「それ以外は?」

「特には……部活も引退しましたし」


 友人との夏休みの予定も全くない。高校最後の夏だと言うのに、なんと寂しいんだろうと思ってしまう。歌恋は思わず苦笑いを浮かべて肩を下げる。


「そいつは良かった。なら、バイトしないか?」

「バイト?」

「そっ。本当に簡単なお仕事だ。しかもただ決まった日に学校に行くだけの簡単な」


 ニヤニヤしながら言う夕月に、歌恋は眉を寄せる。ただ学校に行くだけでお金がもらえるなんて、そんなうまい話があるわけがない。当然、警戒するに決まってる。


「内容は?」

「あぁ。内容はシンプルだ」


 夕月は隣に座るルミの方に触れると、そのまま自分の方に抱き寄せ、笑みを浮かべる。


「ルミの護衛だ」

「護衛?」


 この人は何を言ってるんだ?と思っているのが顔に出ていたようで、夕月が一から説明してくれた。




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