7話《イルカショー》
「そろそろ行こうか」
昼食を終え、スマホに目を向けるとイルカショーが始まる十五分前だった。
人混みに紛れ、会場へと向かう。ぎゅっと迷子にならないように手を繋ぎ、歌恋がルミの少し先を歩いて道を作って行く。
「んー……後ろの方しか空いてないね。さすがにこれだけ暑いと、みんな濡れに前の方に行くね」
会場にはたくさんの人が集まっており、水槽のそばには小さな子供達が中のイルカを見つめる。
イルカショーの観客席の前の方は、一番水がかかるびしょ濡れ必須の場所だ。冬ならともかく今日のような夏場の暑い時期は、みんな涼しくなるために、濡れに前の方の席に座る。
「仕方ない。一番後ろの日陰の席に座ろうか」
「残念です。近くで見たかったのに」
「またくればいいよ。その時は、今日よりも早めに席を取らないと」
一番後ろの日陰の席。出入り口とは反対側に位置する場所で、二人は並んで座っていた。
「あれ、あそこにいるの椎葉かな」
「え、どこですか?」
「ほら、あそこ。向かいの席と、下の方の席」
「ん?」
「ほら、前になんかすっごい派手な服を着てるおばさんの後ろだよ」
目をこらしながらルミは椎葉の姿を確認しようとする。すると、向こうもこっちに気づいたのか手を振ってきた。
「ほら、手ぇ振ってるよ」
歌恋は先に手を振り、ルミもその姿を見つけると、戸惑いながら手を振った。
「あんな前の方に座ってるけど防水かな。いいなぁ、やっぱり早めに出るべきだったね」
水槽の中を泳ぐイルカを見ながら歌恋がそう呟くが、待てどもルミからの返事が返ってこなかった。
「ルミ?」
「ふぇ!?な、なんですか?」
「どうした、ぼーっとして。熱中症にでもなった?」
「いや、大丈夫です」
「そう、ならいいけど。体調悪くなったらすぐにいうんだよ?」
「はい。なんていうか、胸がドキドキします」
「楽しみで?」
「えへへ」
恥ずかしそうに笑うルミ。その様子がとても可愛くて、歌恋はルミの頭を撫でた。
「ま、また頭撫でて……」
「いやぁ。可愛いなぁって」
「子供じゃないんですから」
「はいはい」
少し会話をしていると、イルカショーも始まり、会場に歓声が上がる。
イルカが飛んで水しぶきが上がるたび、日の光が水滴に反射してキラキラと輝く。まるで、きらびやかなサーカスを見ているような感覚だった。
幻想的なそのショーに、ルミも歌恋も目をキラキラと輝かせながら見ていた。
「すごいですね!」
「そうだね、すごいね」
まるで水槽近くの子供たちと同じように大はしゃぎするルミ。歌恋も楽しんでいるが、イルカよりも隣ではしゃいでるルミを見ている方が楽しかった。
(すっごい写真撮りたい。可愛いなぁ)
そう思いながら、横目でチラチラとルミの様子を歌恋は眺める。
『ありがとうございました』
ショーが終わると、会場中に拍手が溢れた。歌恋もルミも当然拍手をし、会場を後にする観客に紛れて、二人もその場を後にした。